EQMM 2024/05 No.0 HMM116号から128号(1966年)までを総括する。

1966年は、常盤新平編集長四年目、HMM初年度でもあります。ここ数年のレベル低下から心機一転を図りたいところですが、さて、どういう結果となりましたでしょうか。


作品の分布について

116号から128号までの作品数は全112編。長編連載は対象から外すことにしました。

最低だった前年(1965年)と同レベルの平均点

1960年(平均6.21)、1961年(平均6.02)、1962年(平均6.05)、1963年(平均5.57)、1964年(平均5.60)、1965年(平均5.40)と5点台にまで低下した作品レベルですが、今年(1966年)度の平均値は5.42。相変わらずの低迷が続いており、もはやかつての輝きを窺うことは出来ません。

総数 平均 偏差 8.0 7.5 7.0 6.5 6.0 5.5 5.0 4.0 3.0 2.0
112 5.42 1.62 4 11 10 15 16 3 25 10 11 7
% 3.57 9.82 8.93 13.39 14.29 2.68 22.32 8.93 9.82 6.25

秀作

8.0ポイント以上は秀作。8.5ポイントはそれを上回る作品と評価します。

題名 作者 評点 コメント 掲載号
8.5以上の作品 : 0
ジョン・ディクスン・カーを読んだ男 ウィリアム・ブルテン 8.0 再読でオチがわかっていたので今回高い評価はできないが、密室パロディの傑作でしょう。 1966-03-118
謎のカード クリーヴランド・モフェット 8.0 有名なリドルスト-リイ。アイディアが良い。 1966-04-119
やすやすとは殺されない フィリップ・ワイリー 8.0 見込まれて後継者となった男は殺人の捜査に乗り出す。ハッピーエンドもあって、楽しく読めるのが良い。 1966-08-124
旅する人 レイ・ブラッドベリ 8.0 他人に乗り移れる少女と不思議な一家の話。設定が面白いし、ラストも良い。 1966-11-127
8.0の作品 : 4
秀作(8.0以上) : 4 3.57%

前年は5作でしたが、今年はさらに低下してわずか4篇。これまた残念な結果となりました。


作家別頻出度

登場作家はトータル80名。

下記に2作以上登場した作家を一覧表示します。

レイ・ブラッドベリ : 11
リング・ラードナー : 9
ジョナサン・クレイグ : 4
アルベルト・モラヴィア : 3
ウィリアム・ブルテン : 2
ロバート・パッサーノ : 2
フィリップ・ワイリー : 2
ヒュー・ペンティコースト : 2
モーリス・ルヴェル : 2
フィリス・ベントレー : 2
ピエール・カミ : 2
ジョゼフ・ホワイトヒル : 2
アーサー・ポージス : 2


読むに耐えぬ作品

題名 作者 評点 コメント 掲載号
ローマの恐怖 アルベルト・モラヴィア 3.0 二人組の強盗の話なのだが、その行動が情けないので読まされるこちらはうんざりだ。 1966-07-122
道中にて リチャード・ミドルトン 3.0 わけのわからん話。 1966-09-125
少女スパイ、モリー ディック・アッシュポー 3.0 これまたつまらない話。ミステリを読ませろよ。 1966-02-117
吸血鬼 トーマ・ナルスジャック 3.0 つまらない話にうんざり。 1966-03-118
芸術院 ジョゼフ・ホワイトヒル 3.0 なんとも言いようのないつまらなさ。 1966-03-118
河を渡って木立をぬけて ジョン・オハラ 3.0 この小説、どこが面白いのかわからない。 1966-05-120
世にも恐ろしきは マージョリー・リデル 3.0 つまらない世間話が長すぎて、オチが決まらない。 1966-10-126
輝く断片 シオドア・スタージョン 3.0 気持ちの悪い変態小説を長々と読まされる身になってほしい。 1966-06-121
警官殺し ピエール・カミ 3.0 くだらない話。 1966-07-122
ある警官の手柄 ウイリアム・マハーグ 3.0 どうしようもなくストーリーテリングが下手くそ。 1966-08-124
息がつまりそう リング・ラードナー 3.0 尻軽女のつまらない話を長々と。「息がつまりそう」なのはこっちだよ。 1966-09-125
ギャングの休日 W・R・バーネット 2.0 なんというつまらん話。 1966-10-126
疲れた娼婦 アルベルト・モラヴィア 2.0 陰気で薄汚れた話を聞かされるのはうんざりだ。 1966-09-125
告白 エリザベス・ボウエン 2.0 何というつまらん話。 1966-01-116
道化役者のパンチネーロ ロバート・パッサーノ 2.0 タクシー強盗の末路を描いた話なのだが、なんともつまらない。こんな作品よく載せるなあ。 1966-02-117
町が待っている ジョゼフ・ホワイトヒル 2.0 ゴタゴタしていてとても読める話ではない。 1966-06-121
テニス・クラブでの殺人 アルベルト・モラヴィア 2.0 醜悪で品性を疑うような話。 1966-04-119
後を尾けてくるのは誰か? ホーリイ・ロス 2.0 こんなつまらん話を冒頭に載せるセンスに驚く。 1966-12-128
問題あり(3.0以下) : 18 16.07%

1962年5篇(4.63%)、1963年12篇(9.60%)、1964年15篇(12.10%)と年々悪化し、全体の1割以上が読むに耐えないというレベルになっていましたが、今年はそれに拍車がかかり、なんと18篇(16.07%)。もう読むのが嫌になるレベルです。


1966年総括

1965年度の総括で、

1963年から編集長となった常盤新平はいかがなものでしょうか。1963年以降は平均が一気に5点台へ低下、3.0以下の作品が10%を超えるなど、レベルが大幅に下がった気がしてなりません。
言うまでもなく、この採点はわたしの主観にすぎず、客観性に乏しいかもしれません。ただ、投書欄『響きと怒り』に「このところのEQMMは面白くない」といった投書があったり、編集部自ら『巻頭言』でそのような意見が少なくないことを認めており、必ずしも一方的な見解ではないでしょう。この状態をすべて常盤新平編集長に押し付けるつもりはありませんが、その責任の一端があることは間違いないでしょう。
次年度(1966年)から新たに「ハヤカワ・ミステリ・マガジン(HMM)」として再出発した本誌はどうなっていくのでしょうか。あまり大きな期待はしていませんが、常盤新平編集長の今後の舵取りを見守っていきたいと思います。

と述べましたが、その小さな期待も残念ながら裏切られたようです。

このような感想は当時の読者にも少なくなかったようで、今年度の最終号である(1966年12月号)の巻頭言で以下のような記述がありました。なかなか興味深いので、少し長いですが引用しておきます。

最近、HMMやハヤカワ・ミステリに対する風当りが強いようです。つい先日も、週刊誌でEQMM初代編集長の都筑道夫氏から、クイーンの「恐怖の研究」という傑作があるのに、TVの後を追いかけたスパイ・ アクションばかり出しているという意味のお叱りをいただきました。また、探偵小説のだいご味は本格ものにあるのに、ハヤカワ・ミステリではちっともそれが出ないじゃないか、と批判する人もいます。スパイ小説はもうたくさんだという声も方々で聞きます。 おそらくハヤカワ・ミステリのなかの本格ものを愛読してくださるファンでしょう。
だが、ご安心くださいと申しあげておきます。「恐怖の研究」は傑作かどうかわかりませんが、毛色の変った探偵小説として、とっくに版権をとりました。昔の話です。何も大騒ぎするほどのことではない。現在の私たちはもっと大きな作品を抱えているのです。ハリー・ケメルマンやH・R・F・キーティングといった有望な作家の作品も版権も取得しています。ただ、翻訳がおくれているだけの話です。それにしても、本格ファンの声はスパイ小説ファンにくらべてはるかに大きいのに、読者の数はどうしてこうも少いのでしょう。同じエンターテインメントではないですか。本誌では来年はひとつ本格ものの紹介に力を入れてみるつもりです。 (S)

編集長常盤新平のコメントでしょうね。
1963年に常盤が編集者になって以来、その編集方針と作品のセレクションには常々不満を感じていたのですが、当時の読者も同様だったようです。来年は「本格ものの紹介に力を入れてみる」ということなので、お手並み拝見、少しは期待しておきましょうか。