Dead, She Was Beautiful ( Whit Masterson )

序盤は悪くないのに、中盤の展開力に欠ける。ラストは意外性を狙ったのだろうが、あまり効いていない。


Whit Masterson ( ウィット・マスタースン )とは..

Whit Mastersonというより、Wade Millerのほうが通りが良いですね。Millerについてはこのサイトの情報が役立ちます。
そこにもあるように、Wade Millerというのは、Robert Allison “Bob” Wade (1920-) と H. Bill Miller (1920-61) の合作名です。
Whit Mastersonは、そのMillerが1955年以降に使ったペンネームの一つ。二人は、12才のときバイオリンレッスンで出会ったというから、まさに幼馴染み、長い付き合いと言ったところでしょう。

Dead, She Was Beautiful

EQMMに載っている彼らの短編は、どれも面白く読めるので、今回は未訳の長編を読んでみることにします。

この作品は、1955年の発表。Masterson名義の作品では、同年に書かれている「All Through the Night」に続く2作目のようです。1作目は「非常線」という題名で邦訳が創元から出ています。
3作目の「Badge of Evil」はポケミスの「黒い罠」、これはオーソン・ウエルズ監督で映画化されているようで、もっともポピュラーな作品でしょう。
6作目の「A Hammer in His Hand」も、これまた創元で「ハンマーを持つ人狼」として訳出されています。
2作目の本編は、未訳のまま取り残されているところを見ると、出来にはあまり期待できないのかなあ。


始まりは、こんな感じ

私立探偵のMort Haganは、Wayne Wishartという人物から、妻の素行調査を依頼される。彼は、もし事実が判明しても離婚する気はないのだが、事実を知りたいという。
自らも離婚した経験を持つHaganは、複雑な思いを持ちながらも、早速夫人の尾行を始める。Hagenは、夫人の行動を逐一確認していくが、背中越しにしか彼女の姿を確認することはできなかった。夫人が自宅に戻り、車から降り立った時、彼はようやくMrs.Wishartの表情を伺うことができた。

なんと彼女は、Hagenの元妻 Hildaであった。

“Dead, she was beautiful”

Mrs.WishartことHildaは、目ざとくHagenに気づき、自宅のプールサイドに招き入れる。仕事をやめることに決めたHagenは、夫からの依頼で彼女を尾行していたことを白状してしまう。

おいおい、職業倫理違反じゃないか(笑)

かつての離婚理由を含めて、Hagenはの男性関係を攻めてみるが、Hildaは全くそのような事実はないと言い切る。
職務放棄を決めたHagenは、その場を立ち去ることにするが、最後に未練たらしく振り返ると、プールで泳いでいたはずのHildaの姿が見えない。あわててプールに駆け戻ると、なんと、Hildaはスチール製の矢で射殺されていたのである。
Hagenは狙撃者を追うが、ストーリー展開上、当然のように取り逃がしてしまう(笑)。

警察からは、Captain Trogeを始めとする捜査陣が到着。Hagenは、当然第一の容疑者となってしまうが、拘束はされない。どうもTrogeとHagenとは顔見知りのようで、このあたりにあまり緊迫感はありません。

ヤバイ女が襲いかかる

その翌日、Hagenは銃を持った女に事務所を襲撃される。すぐに銃をもぎ取ったHagenは、正体を確認にかかるが、女はHildaにそっくりであった。
実は、このヤバイ女、名前はDagne、Hildaの双子の姉妹であることが判明。Hagenは状況を説明し、必死の説得を図るのであった。

さらに意外な事実が...

Dagneとともに、Captain Trogeの事務所に出向くと、さらに意外な事実が判明する。Hagenは、Trogeと同じフロアにいた人物は、かれのスタッフだとばかり思っていたのだが、なんとWayne Wishartとその秘書であるというのである。

昨日の依頼者 “Wayne Wishart” は、全くの偽物であった。

Hagenは、偽のWayne Wishartを探しに街に出ると、その男は通称Docと呼ばれる男と判明。ところが、彼は今朝救急車で運ばれたという。病院に駆けつけたHagenとDagneだが、彼はすでに亡くなっていた。

Hildaの日記

Hagenは、Wayne Wishartに何かあると推測し、彼の自宅を監視、そこでHildaの日記を入手する。その中でHildaは、ある事実を告白していた...


さて、結末は...

まあ、人物設定からして、こんな感じになるだろうと予想できましたね。

全体から見て

序盤の状況設定は意外性があって良いですが、中盤から尻すぼみで展開力がありません。
後半、Hildaの日記発見から過去の殺人へとリンクしていくのですが、これがちっとも面白くない。

Hagenという主人公にも魅力がありません。Hildaの元夫という設定だけで、読者に感情移入させるような描写はほとんどなく、印象が極めて薄い。
また、Hagenは第一容疑者とされるわけですが、Captain Trogeと顔見知りのようで、ほとんど追求されません。疑いが徐々に晴れていく過程を書き込めば、中盤もう少しサスペンスフルに盛り上がったでしょうに。

この作家には期待していたのですが、残念な出来でした。最初に危惧したように、未訳のままなのは、それなりの理由があるものです。