Dragon's Cave ( Clyde B.Clason )
序盤は派手だが中盤退屈、ラストの意外な結末で揺り戻しました。不可能犯罪物を期待すると裏切られます。
作者「Clyde B.Clason」について
「About the author」にかかれていた内容を簡単にまとめておきます。
Clyde B.Clasonのミステリー作家としてのキャリアは、彼の84年の人生の5年間にすぎないが、1936年から1941年までの短い期間に、Theocritus Lucius Westborough教授を主人公とする長篇探偵小説を、Doubleday社から出版した。
1903年、デンバー生まれのClasonは、代表作「チベットから来た男」を含むいくつかの小説の舞台となったシカゴで長年過ごし、コピーライターおよび業界誌の編集者として働きながら、建築、年代物の家具に関する著作を出版した。また、ミステリーの著作をやめた後にも、サイエンス・フィクションや天文学を扱ったいくつかのノンフィクションを書いている。
Clasonは、第二次大戦戦半ばに探偵小説のジャンルから離れ、二度と戻ることはなかった。これは戦後のミステリーの世界が、ミッキー・スピレインなどによる「性と暴力の世界」に支配されていたからだと言う。彼は、読者、少なくとも出版社は、彼のミステリー小説には、もはや何の興味を持っていないと考えていたようだ。
今回の作品「Dragon’s Cave」は...
プリントショップオーナーでアンティーク武器のコレクターであるJonas Wrightが、自宅の施錠された武器室内で、自分のコレクションによって殺害されているのが発見されます。
状況から、犯人は家族の一員である可能性が高いとされた。発見者は、共同経営者であるJulian Carrと、長女のMadeleine。二人は「ロミオとジュリエット」の素人芝居の舞台を終了後、帰宅した自宅の床に血痕をあることを見つけ、死体を発見したのだった。Madeleineは、Julianに思いを寄せているのだが、彼には離婚を拒否する妻がいる。
長男のWellingtonは酒浸りで父親と諍いがあるようだ。彼の親友で画家として働いていたTony Corvenuは、その当日に解雇されている。それは何か事件と関係があるのだろうか。
事件の担当者は、シカゴ警察のJonny Mack警部補。彼は友人であるLucius Theocritus Westboroughに助力を求める。Westboroughは、この事件の鍵は、被害者の日記にあると考えるが、その日記は暗号で書かれており、キーがわからないと解読することが出来ないものであった。
捜査が停滞する中、自宅にいたWellingtonが警察の監視をかいくぐって失踪してしまう。そして、彼はその後、死体として発見されたのであった..。
読み終えると..
一般に、Clasonのミステリーは、不可能犯罪物と言われますが、今回の作品はどうでしょうか。
Dragon’s Cave(ドラゴンの洞窟)という題名から、迷路のある洞窟でのおどろおどろしい殺人か..などと期待すると、それは全くの見当はずれ。題名は、シェイクスピア「ロミオとジュリエット」の第3幕のジュリエットの下記のセリフに由来するものでした。
Juliet:O serpent heart hid with a flow’ring face! Did ever dragon keep so fair a cave?
本書は、Wright一家における人間模様をテーマにしたもののようで、ミステリーとして見ると謎は非常に小粒、本格的な不可能犯罪物を期待すると、完全に裏切られます。例えば、第一の殺人は一見密室殺人のように思われますが、その設定は大して言及されることもなく簡単に扱われてしまっていて、読み終わった今でもあれは何だったのか、と訝しく思うものですし、二番目の人間消失も、何やら空き巣の手口のようなものにすぎず、消失トリックなどと言えるものではありません。結局、本書における謎らしい謎は、死者の暗号日記だけで、これの解読によって犯行の動機が明らかになる、その程度のものでした。
さて、題名が「ロミオとジュリエット」に由来しているように、物語の中心となるのはMadeleine WrightとJulian Carrの関係で、Madeleineの二人の兄、Julianの妻Isabeauなどの人間模様が、中盤延々と描かれています。
しかし、このようなヒューマンドラマを支えるには相当なスキルが必要であり、その時代の風俗、常識などに依存する部分も多く、半世紀以上経過した現在に通用するレベルとすることは容易なことではありません。残念ながら、作者にそのような才能があるとは思えず、本書の中盤は、はっきり言って「退屈の極み」です。
しかし、いい加減嫌になってきた終盤、日記が解読されたところから話は一気に展開していきます。そこで、意外な真相があばかれるわけですが、これはいささか強引、あまりフェアとはいえません。でも、それで良いのです。「結末の意外性」、これこそがミステリの醍醐味でしょう。
Rue Morge Press 2007 $14.95 189ページ