File on Claudia Cragge ( Q.Patrick )
犯人当てのテキストとしては真相にすぐ見当がつくし、ストーリー展開に何の意外性もない凡作であった。
「捜査ファイルを読む」 6冊めは...
マイアミ沖殺人事件の好評を受け、アメリカでは William Morrow社が Crimefile Number 1 File on Bolitho Blane(1936) という書名で出版。その後、三冊を出版しました。
- Crimefile Number 2 File on Rufus Ray(1937) by Helen Reilly
- Crimefile Number 3 File on Fenton and Farr(1937) by Q. Patrick
- Crimefile Number 4 File on Claudia Cragge(1938) by Q. Patrick
前回は、Crimefile Number 3 File on Fenton and Farr(1937) by Q. Patrickを紹介しましたが、今回は、その次にあたる「Crimefile Number 4 File on Claudia Cragge(1938)」を読んでみます。
この作品では、Q.Patrickこと、パトリック・クエンティンの探偵役を長く務める Lieutenant Timothy Trantが登場します。
事件の発端
1938年10月6日の午前、Lietenant Trantのオフィスに、Mrs.Isobel Pegemが訪れるところから話は始まります。
彼女は、富豪であり心霊研究家として知られていたEliot Wanderby Craggeの妹。Eliotは昨年の10月に亡くなってるが、死の直前に遺言状を書き換え、彼自身の財産はもちろんTrust Fundへの権限まで、二番目の妻であり秘書でもあったClaudiaに譲ることにしていた。Eliotは家族の中に、なにか深刻な問題を認識し、Claudiaに直接Trust Fundの運用まで決定するよう指示したのだと言う。
Isobelは、そのClaudiaに危機が迫っていると訴えるのである。そして、その警告を与えているのは、故人であるEliotその人であると言うのだ。
Isobel Pegemは、かつてJavaで暮らしていたが、現地の熱病で夫をなくし、息子ともどもStatesに帰りついた過去を持つ。
帰国の際に一緒についてきたのが、Julie Van Maasで。彼女はIsobelの息子Peterや、姪のElsa、Eliotの先妻の連れ子の乳母を務めていた。同時に、Julieは、生まれながらの霊能力者で、Eliotの心霊研究では霊媒の役割を担っていたのであった。ただ、最近は飲酒癖が顕著で、霊媒でトランス状態になった時にも、酒に飲まれ記憶を失う傾向があり、Eliotに叱責されていたと言う。
対応を渋るTrantに、Isobelは、新たに写真を見せる。Claudiaを撮った写真に、Eliotが写り込んでいる。これは、「Eliotが現世と交換できる証拠なのだ」とIsobelは主張する。
そして、近く自宅で行われる降霊会に、Trantが参加することを了承させたのであった。
降霊会の殺人
さて、事件は、Cragge一族が集まった、その降霊会のまっただ中で起こる。
暗闇の中でClaudiaが何者かに絞殺されてしまったのである。
なんと凶器は、霊媒であるJulie Van Maasが持ち込んだ、トランペットについている紐によるものとされた。
現場に残された遺留品も、当然捜査対象になったが、その中で目を引くのがClaudiaが持っていた血液のサンプルのような3枚のシートであった。これは一体何を意味しているのであろうか。
なお、霊媒であるJulie Van Maasは、降霊会中は手錠をはめられ、そのキーはTrantへ渡されていた。また、降霊会の模様は、ディクタフォンで録音されていたことが判明する。
さらに、現場にいたTrantは、事前に赤外線カメラを持ち込んでおり、暗闇の中で3枚の写真を撮っているが、どれもピンぼけでよくわからない。眼の前で殺人は起きるは、大した結果を残せないはと、ここまでのTrantは面目丸つぶれで、検察から皮肉を言われる始末である。
さて、下記の写真は、Julie Van Maasが降霊会に入る前に撮影されたもので、トランペットにギターのようなものまで写っています。
なんで、こんな楽器まで持ち込むんだろうと疑問に思いますが、死者の霊がこういう楽器を鳴らすような演出があるのでしょう。
この辺りの降霊会は、鳴り物入りなのか(笑)
容疑者たち
Isobel Peremと霊媒のJulie以外には、下記の4人が降霊会に参加していた。彼らはすべてClaudiaの死によって利益を受ける人物であり、動機は十分である。
Peter Pegem
Isobelの一人息子。Cragge一族直系唯一の男子である。
Eliotの死後は、Peterが中心となると思われていたが、今回の遺言書き換えで微妙な立場になっている。姪のElsa Rowleyとの結婚を望んでいるらしいが、Claudiaに反対されていたらしい。降霊会中は、Eliotが好きであった曲をハーモニカで吹いていたという。ハーモニカの音は録音で確認されている。
Lord Merriwether
Lord Merriwetherは、Eliotの義理の息子、最初の妻の連れ子である。Englandにある領地を維持することが難しくなっていて、Claudiaに援助を頼みに来ていたが、彼女は態度を明確にしなかったと言う。Elsa Rowleyと交際しているらしい。
Elsa Rowley
絞殺という殺人手段から女性には難しいのではないかとされたが、Elsaはテニスプレイヤで十分な体力があることから容疑者リストから外されていない。
Claudiaとは常に敵対していたという。Claudiaは当初、運転手と結婚するつもりであったが、Lord Merriwetherが来てからは、そちらに乗り換えようとしていた。この面からも、さらにClaudiaとの対立を深めていたことが明らかになる。
Soames Oliphant
Eliotのいとこで、心霊術信者である。今回の降霊会も彼の肝いりで行われていた。従来の遺言で自分のための心霊研究会を立ち上げる計画であったが、それが覆ってしまった。Claudiaの死によって、再度現実のものになるという強い動機がある。
その後の展開
Claudiaの書斎が放火されるという事件が起きる。幸いボヤで終わったが、犯人はなにか証拠隠滅を狙っていたようだ。
また、死の直前Claudiaは、血液研究所にエキスパートを訪ね、根掘り葉掘り聴き込んでいたことがわかる。Claudiaは、一体何を調べていたのであろうか。
最後に、Trantは関係者一同を集めて、犯人を指摘します。
解決編を読んで
これまで「捜査ファイル物」を読む時は、問題編を読み終えると同時に記事のまとめを始めます。この作業を通じて、再度事件の内容を整理し、推理を明確にしていくという過程を取っていました。しかし、この作品では全くその必要性を感じませんでした。なぜなら、犯人の正体も動機も特に苦労することなく推測できるレベルだからです。そう、簡単に言えば、ミエミエでしたね。
「降霊会の殺人」という舞台設定はそそられるものがありますが、あまり臨場感を感じません。中盤はさらに単純な尋問が続き、新しい展開もありません。短い作品なので、読むのが苦痛になることはありませんでしたが、いささか平板と言わざる得ません。
また、なぜ犯人は降霊会で、しかも絞殺という手段で殺害しないといけないのでしょうか。暗闇とはいえ、公衆の面前での犯行なのです。いくら被害者が女性とはいえ、抵抗され騒がれたらおしまいです。しかもそれができるのは、腕力のある人間に限定されるのですから、自らの正体を狭めるにすぎません。ようするに、舞台設定に必然性がないわけです。
終盤、被害者のClaudiaが血液に関する調査をしているくだりになると、さすがに、作者もこのままではまずいと思ったのか、犯人に小細工させますが、これもあまり効いていませんね。
Q.Patrickは好きな作家で、ほぼ全作を買っている作家なのですが、この出来は少し残念でした。
購入したのは
1998/10/31に、Barns & Nobleの古書サービスにて、$19.60で購入したようです。前作の「File on Fenton and Farr」同様、この作品もその後どこからも再刊されていないようですが、前作に比べて入手はそれほど難しくありません。まあ、あまりお薦めできませんけど。