Footprints ( Kay Cleaver Strahan )
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ストーリー展開も工夫されているし、最後まで真相を伏せるところなどよくできている。
今回は Kay Cleaver Strahan の「Footprints(1929)」を読んでみます。 Wikipediaによると作者は、
Kay Cleaver Strahan (January 4, 1888 – August 14, 1941) was an American writer of short stories and mystery novels. She created the character of the “crime analyst” Lynn McDonald.
ケイ・クリーヴァー・ストラハン(1888年1月4日 - 1941年8月14日)は、短編小説や推理小説を書いたアメリカの作家である。彼女は「犯罪分析家」リン・マクドナルドというキャラクターを生み出した。(Google翻訳)
とのこと。
この作者がミステリファンの間で少し知られているのは、ミステリー・リーグ誌のベスト20に、この「Footprints」が入っているからでしょう。実施されたのが1934年ですから、まさに古典的な作品ばかりですが、10位に入っているのはいささか驚きです。なにせ、9位「トレント最後の事件」と11位「813」に挟まれての順位なのですから。にもかかわらず、邦訳がない(2025年3月現在)のはこの作品のみ。さて、その理由はいかに。まあ、「百聞は一見に如かず」といいますから、何はともあれ読んでみましょう。
(このベスト20については、「ミステリー・リーグ誌のベスト20」という記事にまとめられているので、詳細はそちらを参照ください。)
こんな話
28年前の1900年10月、 Quilters 家の当主 Richard Quilter が銃で殺害されるという事件が起きる。この殺人事件は、結局未解決に終わってしまったのだが、未だ Quilters 一家に暗い影を落としていた。
長男である Neal は「自分が父を殺害したのではないか」という強迫観念に悩んでおり、再三に渡ってそれを姉の Judith に訴えていたのである。彼の精神状態を気遣う Judith に相談を持ちかけられた、主治医の Joseph Elm は、犯罪分析家である Lynn McDonald を訪れ、28年前の事件の分析を依頼するのであった。
Elm は、Lynn Mcdonald に、犯行当時の状況をしたためた手紙を渡す。それは、当時他家に嫁いでいた姉の Judith に宛てて、妹の Lucy と弟の Neal が書き綴った手紙の束であった。
事件に至るまでの経過は、この兄妹の手紙によって記述されていきます。事件当時、Quilter 邸にいた人物は以下のとおり。49ページに登場人物一覧表が掲載されているので、そのまま載せておきます。
- Richard Quilter: the murdered man.
- Thaddeus Quilter: Richard’s father.
- Phineas Quilter: Richard’s uncle.
- Olympe Quilter: Richard’s aunt. Phineas’s wife.
- Gracia Quilter: Richard’s sister.
- Christopher Quilter: Richard’s cousin.
- Irene Quilter: Christopher Quilter’s wife.
- Neal Quilter: Richard’s son.
- Lucy Quilter: Richard’s daughter.
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姉に宛てた一連の手紙の中で、Lucy は、Christopher が Quilter 一家に向かい入れた妻 Irene のわがままぶりを姉に訴えていた。Irene は、この邸宅を売却してニューヨークへ移住することを計画していたのである。また、夫妻の部屋と Richard の部屋を交換させるなど、自らの欲求を満たすことばかり考え顰蹙を買っていたのである。
そして、事件は突然の銃声で幕を開く。犯行当時、Chris と喧嘩していた Irene は、扉の鍵を締めてしまい、現場にたどり着けたのは彼女だけであった。死の淵の中で Richard は、「Red mask」という謎の言葉を残した後、息絶えたのだという。
部屋の窓が開いており、そこにロープが結び付けられているのが発見される。犯人は Richard 殺害後、このロープを使って窓から脱出されたものと推測された。
しかし、それを裏切る事実が明らかになる。当日は10月にも関わらず雪が降り積もっていたのであるが、そこにはなんの形跡も残っていなかったのであった。「足跡がなかった」のである。
もし、犯人が邸宅を脱出していないとすれば、まだ邸内に隠れているのかもしれない。その後、家族全員で邸内の捜索にあたるが、何人も発見されなかったのである。
事件はこのまま未解決のまま、28年が経過したのであった。犯罪分析家の Lynn McDonald は、どのような結論を導き出すのであろうか..。
読み終わると...
Kay Cleaver Strahan は、謎を重視しない女性好みのロマンス派、いわゆる「Had I But Known(もし知ってさえいたら)派」と言われているようですが、この作品を読む限り、作中で展開される分析ロジックも論理的で、ミステリとしても十分しっかりした構成を持っているように思えます。
また、事件に至るまでを妹 Lucy の少女らしい感性で進め、事件以後を Neal による文章に切り替え、検死裁判内でのやりとりなど事件経過を詳細に記述するストーリー展開もよく考えられています。
結末においては、意味深なやり取りで読者を引っ張り、最後の一行まで犯行に至った人物名を伏せておく、という手法もなかなか効果的でした。クイーンの作品にもこんなのがありましたね。全般的に言って、十分訳出される資格のある作品ではないでしょうか。
作品の入手について.
Kay Cleaver Strahan の作品は著作権が切れているようなので、Project Gutenberg から無料でダウンロードすることができます。
第一作めの「The Desert Moon mystery」もありますが、この作品は乱歩が「探偵小説四十年」で一項を割いている柳香書院「世界探偵名作全集」(昭和10年~11年中絶)」の一巻として挙げられていました。こちらのほうが世評は高いようなので、そのうち読んでみたいと思います。
なお、柳香書院全集の詳細については、こちらが参考になります。
THE CRIME CLUB.INC 1929年 316ページ
2003年にアメリカの古書店 Grave Matters から、$12.50 で購入したようです。