Murder Wears a Cowl ( Paul Doherty )

中世ロンドンを舞台にした娼婦連続殺人と宝物盗難事件。ムード溢れる雰囲気とストーリー展開が楽しい。


先に読んだThe Prince of Darknessで、その実力を見直したPaul Doherty。続けて、Hugh Corbett物の第6作「Murder Wears a Cowl(1992)」を読んでみます。


こんな話

時は1302年、ロンドン。娼婦を狙うシリアルキラーが世間を騒がしていた。その殺害手段は、まず喉を切り裂き、その上で性器を切り取るという猟奇的なものであった。その犯行は毎月13日に行われ、すでに1年以上も続いているというのだ。
さらに、近郊の修道院でも惨劇がおきていた。修道女Lady Somervilleが娼婦と同じ手段で殺害され、さらにその知人の僧侶が火災に巻き込まれ焼死しているのが発見されたのである。
これらの事件の関連性は不明だが、イングランド王Edwardは、側近であるHugh Corbettに早急な解決を求めたのであった。休暇を無効にされたCorbettは、いやいやながらも従僕Ranulfと馬丁Maltoteを引き連れ、ロンドンへ出向くはめになってしまう。

ちなみに、主人公のHugh Corbettですが、最近Sirの称号を受けた模様。この人、フランスへの諜報網を構築した功績などもあり、王自らが「我が片腕」と称えるほどの偉い人なのです。「密偵」と紹介されるケースを見かけますが、とんでもない誤解です。ただ、捜査に出向く時は、従僕Ranulfを従えるのみなので、確かに「密偵」、日本なら「公儀隠密、御庭番」といったイメージに近い気もします。
「もっと部下をうまく使えよ、それじゃあ管理職失格だぞ」と思うのはわたしだけでしょうか(笑)。

さて、ロンドンに赴いたCorbettは、Lady Somerville殺害現場に居合わせた物乞いから、彼女が犯行現場で出会った人間が知り合いだったという証言を得る。また、彼女は、その死の前日「The cowl does not make the monk.」という謎のメッセージを残していたのであった。

一方、こんな話もCorbettの耳に入ってくる。あの悪名高い犯罪者Richard Puddlicotがフランスからイングランドに入国しているいうのである。彼はイングランドで何を計画しているのだろうか。さらに、Richard Puddlicotは、フランスの援助を受けているとの噂も聞こえてくる。となると、後ろで糸をひいているのは。フランス王Philip四世と、その腹心のde Craonということなのだろうか。

捜査を進めるCorbettは、王の宝物蔵警護を担当している僧侶らが、娼婦を集めて乱痴気騒ぎをしているという事実を突き止めた。同時に、それを扇動していた謎の人物の存在を知ったCorbettは、強制的に地下の宝物蔵を開かせるのだが、そこから大量の金貨が盗掘されていることを発見する。どうやら、謎の人物は娼婦を僧侶にあてがい、その間に裏の墓場から宝物蔵へのトンネルを掘っていたらしい。その人物こそ、Richard Puddlicotに違いない。

その事実を知ったEdward王は激怒しているという。Corbettに残された時間は少ない。
持ち去られてしまった金貨を、Corbettは取り戻すことが出来るのか。また、連続殺人犯を見つけることができるのか。
窮余の一手として、Corbettは仇敵de Craonが乗船しているフランス船を拿捕したのだが..。


読み終えると..

今回の作品では、娼婦連続殺人事件と宝物盗難事件が並列に進行します。Corbettは、社会の底辺にいる娼婦や物乞いから話を聞き出し、腐敗した僧侶らを脅しつけながら、事件の解決に迫っていきます。明かされる殺人事件の真相はミステリ的には大したものではなく、犯人もさほど意外ではありませんが、動機を含め説得力のあるものとなっています。
しかし、この作品の評価ポイントはミステリ的な要素ではなく、ストーリーが良く出来ていて面白く読めることでしょう。特に、Corbettが宝物盗掘の事実を突き止めていく後半のプロセスは、一気に読み通す魅力があります。

さて、この作品の背景となる宝物盗掘事件ですが、登場人物であるRichard Puddlicotと関係した僧侶を含め、実際にあったもののようです。Doherty自身が巻末の「Author’s Note」で触れています

The events described in this novel actually occurred. Richard Puddlicott was an educated clerk, a master of disguise and a well-known villain with an international reputation.

Wikipediaでも、下記のように書かれています。

Richard of Pudlicott (died 1305), also known as Richard de Podelicote (or Pudlicote, or Dick Puddlecote), was an English wool merchant who, down on his luck, became an infamous burglar of King Edward I’s Wardrobe treasury at Westminster Abbey in 1303.

なるほど、過去の実在事件を巧みに自作品に盛り込んだわけですか。中々の手腕といえるでしょう。前回見直したPaul Dohertyですが、今回も満足させてもらいました。次作にも期待しましょう。