The Case of Black Twenty-Two ( Brian Flynn )

面白くは読めますが、通俗的な展開はいささか古めかしく、ミステリ的に今ひとつなのも残念。


Brian Flynn( ブライアン・フリン ) の二作目

一度、原書から離れるとなかなか手に取れないもので、半年ほど空いてしまいました。
今回の取り上げる作品は、The Billiard Room Mysteryに続く、Anthony Bathurstシリーズの二作目。前作がなかなかの出来だったので、少し期待しています。


こんな話

Peter Daventryが所属する法律事務所に、アメリカの富豪Laurence P.Stuwartから依頼が来るところから話は始まる。
Stuartは近く開催されるオークションに出品される、かつてスコットランド女王メアリーが所有していた3つのアンティークを、『金に糸目をつけず落札せよ』と指示する。それを受けた、Peterはオークション会場の事前視察に出向き、アイテムとその警備状況を確認したのだった。

ところが、その夜オークション会場で、Laurenceが指定していた3品が強奪されたうえ、警備員が撲殺されるという事件が起きてしまう。
さらに、その同時期には依頼主であるLaurence P.Stuartまでが、Assyntonの自宅で殺害されていることが発見されたのであった。

事前視察に出向いていたPeterは、警察から不信の目を向けられてしまう。それに不安を感じたPeterは、知人を通じてAnthony Bathurstに協力を依頼する。
また、Laurenceの息子であるCharlesからも事務所に依頼の連絡が入り、PeterはBathurstを伴って、Stuart邸に出向くことになった。

大富豪殺人現場では...

犯行当時、邸宅には息子のCharles、Laurenceの古い友人の娘で、実の娘のような存在のMarjorie Lennox、秘書のMorgan Llewllyn、長年執事を努めているJohn Butterworthと奉公人数名が在宅していた。

Laurenceは、その朝自宅の書斎で発見される。部屋に鍵が掛られていることに不審を抱いたメイドの報告から、3人の男がドアを破って室内に入ってみると、Laurenceは後頭部を3回殴打され死亡していた。状況から見て、殺人であることは間違いない。
しかし、室内の窓はすべてロックされており、ドアは内側に鍵が差し込まれていたことが確認されている。現場はいわゆる密室状態なのであった。

その後の捜査によると、Laurenceは、犯行当夜友人のColonel Leach-Fletcherと部屋で何かを話し合った後、書斎に一人残っていた。机の上には、『urgent to “M.L."』という書きかけの手紙があり、その途中で何者かに殺害されたようだった。ガウンの左ポケットにリボルバーを持っており、一発発射された形跡が残っていたが、銃声は誰も聞いていない。

Bathurstの捜査が始まる

現場に到着したPeterとBathurstは、独自の調査を始めるが、その中で「使用人の自転車が、殺人の夜無断で使われていた」という情報を得る。殺害犯は、共犯者に連絡を取る必要が生じたのではないか、「邸宅の電話は使えないので、可能な場所まで出向いたのだ。その連絡先は、オークション場の強盗犯と関係があるに違いない。」とBathurstは推測する。

さらに、宝物室の調査では新たな事実が発見される。Screen(織物で装飾された衝立のようなもののようです。表紙には、それを奪っていく男の絵が書かれていますね。)が一つなくなっていたのである。

また、当夜Laurenceと話をしていたColonel Leach-Fletcherからも重要な情報を得る。
Laurenceは、イギリスに来て数ヶ月ほどから、誰かが自分を裏切っている、不正が進んでいるというのだ。息子のCharlesにも不信感を持っていたとも言う。

富豪殺人事件とオークション強盗殺人との関連調査とともに、Bathurstは、古い文献からある事実を導き出していく。


読み終えて..

ストーリー展開は非常に滑らかで、退屈することなく読み進めることが出来ます。特にラストで、Bathurstが犯人をトラップにかけるシーンは、なかなかの盛り上がりを見せてくれます。
ただ、基本的にこの作品は通俗的なスリラーであり面白くは読めますが、ミステリとしてみるといささか不満が残ります。犯人はそれなりに意外な人物ですが、その設定は大時代的で犯行動機にも説得力を欠いています。
現場は密室殺人となっていますが、作者は特にそれを強調することもなく、解決も一言で済ましてしまうというレベルのものでした。必然性にも欠けていますし、安易に話を盛りあげようとする小細工としか言いようがありません。
このあたりは少々残念なところですが、楽しい読書時間を過ごせたのですから、良しとしましょう。英語も読みやすいしね。

ところで、この時代の警官の地位はあまり高くないのかもしれません。作中、スコットランドヤードから派遣されるGoodall警部は、Bathurstを必ず「Mr. Bathurst」と呼んでいますが、Bathurstの方は「Goodall」と呼び捨て。エラそうに(笑)。

題名にもなっている「Black Twenty-Two」とは、Bathurstが発見するものですが、その正体は結末まで読者に明かされません。大した趣向ではありませんが、まあ、これのおかげで話は丸く収まりました。めでたし、めでたし。