The Death of Lawrence Vining ( Alan Thomas )
エレベーターでの密室殺人はそそるが、解決は予想できてしまう。中盤以降は因縁話で展開に乏しく、ラストは冗漫でいささか退屈でした。
今回は、Alan Thomas という作家の「The Death of Lawrence Vining(1928)」を読んでみます。そもそもこの本を何故買ったのかよく覚えていないのですが、たぶん「エレベータ内での密室殺人」といったようなコメントをどこかで読んでいたのでしょう。購入したのは2002年のようなので、もう22年前の話。そのあたりはもう記憶にありません。さて、出来はどんなものでしょうか。
こんな話
題名になっている Lawrence Vining は著名な素人犯罪研究家であり、様々な事件に対し警察に助言を与えていた。最近では「The Shop Case」と呼ばれた事件を、彼の友人であり協力者でもある医師の Ben Willing とともに解決に導き、その名声を高めていたのである。
一方で、彼に近い人物からの評判はあまり芳しいものではなかった。Willingの姉 Martha は、Vining を毛嫌いしていたし、このように彼を嫌う人間は少なくなかったのである。
また、身内にもトラブルを抱えていた。引き取って養子にしている Jack Ransome は、Vining の秘書である Pamela との婚約を懇願していたのだが、Viningは、それを拒否。諦めないようなら、彼を相続から外すとまで宣言していたのである。
そんなある日、Vining はある事件の調査のため、地下鉄の Hyde Park に出向く。そこで、エレベータに一人で乗り込んでいくのを、駅員は目撃しているのだが、そこから降りてきた時、彼の背中には短剣が突き刺さっていたのであった。傷の位置から見て、自殺ではありえない。しかし、エレベータが下降していく間に、第三者が近づいた形跡は全く見当たらなかったのである。
この事件を担当するのは、ScotLand Yardの Detective-Inspector Widgeonであった。彼は関係者に話を聞くのだが、事件が報道されると、トラブル状態だった Jack Ransome が姿をくらましていることが判明する。また、なぜか使用人であるマレー人の Suleiman までが失踪してしまう。犯行に使われた凶器は、Vining がマレーから持ち出した短剣と判明するのだが、その失踪は短剣の由来に関係があるのであろうか..。
読み終えると..
「衆人監視の中でのエレベータ殺人」はなかなか魅力的なのですが、前後の状況を冷静に考えてみると、残念ながら犯人はすぐ見当がついてしまいます。そもそも、彼を殺害したいのであれば、こんな不可能状況を作らないほうが良かったのではないでしょうか。犯罪研究家である Vining を憎んでいた人間は多数いるでしょうから、人目のない適当な場所を選んで人知れず実行してしまえば、そちらに疑いが向かうのは間違いのないところでしょう。
まあ、この作品を Web で検索すると結構な数がヒットするには、ひとえに「エレベータ内での不可能犯罪」というテーマゆえでしょうから、これにケチをつけるのは野暮というものかもしれません。ただ、もう少し必然性というものを考えてほしかった。
中盤からは、マレーに伝わる短剣を持ち逃げした Vining と、それを執念深く追う現地の結社、それに関係者の出生の謎を絡める、というこの時代の作品にありがちな展開となり、ミステリとしての面白さはあまりありません。
最後は殺人者の日記で事件の真相が明らかにされるのですが、これがどうにも冗漫で退屈。もう少しうまくまとめて欲しいもので、印象がすっかり悪くなってしまいました。
A.L.BURT COMPANY 1929 United States of America 313ページ