The Demon Archer ( Paul Doherty )

多彩な登場人物と巧みなストーリー展開で読ませる。オーソドックスの本格ミステリとしても良くできています。


 Paul DohertyHugh Corbettシリーズ、今回は第11作目に当たる「The Demon Archer(1999)」を読んでみます。前作の「The Devil’s Hunt 」で、殺人者にクロスボウで襲撃されてしまった Corbett ですが、さて状況はどうなのでしょうか。


こんな話

 時は1303年、St Matthew’s Day (聖マタイの祝日)。その日狩りに出ていた Henry Fitzalan 卿が、矢で射殺されるという事件が起きる。彼は強欲な男で、実の弟である William や、腹違いの妹である Lady Madeleine にも敬遠されていた。Williamは、未だ独立を許されず彼のもとで働かされているが、Madeleine は、すでにSt. Hawisia修道院長として彼の元を去っていた。
 さらに、Henry Fitzalan 卿は、好色家としても知られており、森林司法官である Robert Verlian の娘 Alicia にも触手を伸ばしているという。
その一方で、Henry Fitzalan 卿は外交のやり手でもあり、フランス王 Philip4世 とその腹心である Amaury de Croan を招き、接待にあたっていたのである。

 事件の第一容疑者は、娘を Henry Fitzalan 卿に狙われていた Robert Verlian であった。彼は狩りの実行責任者にも関わらず、殺人が起きた現場に顔を見せていなかったからである。その Verlian は、急な追求を恐れ、教会に逃げ込んでいるという。
 また、殺人現場となった Ashdown の森では、最近「the Owlman」 という謎の男が徘徊し、Henry Fitzalan 卿に脅迫文を送っていた。
さらに、女性の全裸死体が St. Hawisia 修道院近くに捨てられているのが発見されたのである。

 この状況を重く見たイギリス王 Edward1世 は、Hugh Corbett を現地に派遣する。調査に赴いた Corbett は、St. Hawisia修道院を数回訪れている男の存在を知る。なんと、それは皇太子 Edward であり、彼はそこで王によって追放された Piers Gaveston と密会しているらしいのだ。
また、彼の宿敵である Amaury de Croan の存在も気になる。彼と Henry Fitzalan 卿は、何を密談していたのであろうか..。


読み終わると...

 前作に続いて好調、物語として面白く楽しく読ませていただきました。それぞれの人物像もしっかり描かれていて、犯人捕縛後、Edward王が Amaury de Croan を脅すところまでなかなかの迫力、一気に読ませる魅力に富んでいます。

 今回は、ストレートな本格ミステリとしても良くできていると思います。犯行動機はユニークで、現代人には理解しがたいものなのですが、中世の宗教的な時代背景により、逆に説得力を増しています。

 また、実在の人物を巧みに配する構成は、今回も効果的で、第5作「The Prince of Darkness」に言及された皇太子と Piers Gaveston の密会や、第9作「Satan’s Fire」に登場した「テンプル騎士団」へのフランス王 Phillip 4世の野望などが巧みに組み込まれており、シリーズ物の強みをしっかり活かしていると言えるでしょう。

 さて、物語の最後で貫禄を見せた Edward1世 ですが、1307年に死去。その後を皇太子( Prince of Wales ) が Edward2世として、王位を継ぐのですが、この人、「どうしようもないバカ殿(王だけど)」だったようで、最終的に廃嫡、監禁後、殺害されてしまう模様です。その大きな要因となったのが、念友(いわゆるホモダチですね)だった Piers Gaveston なのですが、彼はそれ以前に殺害されています。

このような混沌の時代にも「Hugh Corbett は登場するのかな」と思っていたのですが、最新作「Banners of Hell」(2024)の Amazon 紹介文を覗いてみると、下記のようになっていました。

Summer 1312. The brutal murder of King Edward II’s favourite, Peter Gaveston, unleashes a horde of demons . . .
1312 年の夏。エドワード 2 世の寵臣ピーター ギャヴェストンが残忍に殺害され、悪魔の大群が解き放たれる。(Google翻訳)

なるほど、まだまだ Corbett は引退させてもらえないようですね。