The Devil's Hunt ( Paul Doherty )
暗いムードの中での連続殺人。後半はドラマティックな展開で読ませます。
Paul DohertyのHugh Corbettシリーズ。今回は第10作目に当たる「The Devil’s Hunt(1996)」を読んでみます。前作の「Satan’s Fire 」で、激務に耐えきれず、イングランド王エドワードに暇を乞い、田舎に引きこもってしまった Corbett ですが、さてどうなるのでしょうか。
こんな話
舞台となるのは1303年のオックスフォード。ここでは、Bell Man と称する謎の男が暗躍していたのである。
教会の扉には、 Edward 王を糾弾する檄文が度々貼り付けられ始めた。彼は約40年前の内戦で国王の仇敵であった Simon de Montfort の信奉者のようで、de Montfort の栄光を讃えるとともに、王に対する強い敵意をあからさまに表現していたのである。学生たちはウェールズ出身者が多く、国王へ反感を持っているものも少なくない。Bell Man の文書は彼らを扇動する目的もあるようであった。
Doherty の作品では、実在の人物を配置するのがおなじみですが、Simon de Montfort も有名人のようです。ウィキペディアによれば、
シモン・ド・モンフォール(Simon de Montfort, 6th Earl of Leicester, 1208年 - 1265年8月4日)は、中世イングランドの貴族(第6代レスター伯)。イングランドの議会制度の基礎を作り上げた人物として有名で、不当な権力に反抗する不屈の闘士として、イングランドでは英雄視されている。
とのことです。
さらに事態は深刻な状況となっていく。Sparrow Hall と呼ばれる学術施設の中で連続殺人が行われたのである。そこでは、執政担当者が夜間死体となって発見されたのを手始めに、図書館司書が密室状態の室内でクロスボウで刺殺されると、その容疑者までもが毒殺されてしまったのである。
また、市外でも奇怪な事件が引き起こされていた。物乞いが奇怪な死体で発見されていたのである。その首は切断され、なんと上部の木にぶら下がっていたのだった。
この連続殺人の実行者は、Bell Man なのではないか..。
オックスフォードの事件を重く見た Edward は、自ら田舎に引きこもっている Corbett のもとを訪れ、その調査を頼みこむ。王にここまでされては、Corbett にはその依頼を断りきれない。いつものように Ranulf と Maltote の腹心二人を引き連れて、オックスフォードに出向くことになるのであった。
さて、現代のオックスフォードといえば、アカデミックな学術都市というイメージがありますが、この当時の市内には浮浪者、物乞い、売春婦にポン引きが徘徊、治安が悪いうえに不潔な環境にあり、かなりひどい状況だったようです。作中で作者はそのあたりを詳細に描いています。
Bell Manの魔手は、ついに Corbett の配下である Maltote にまで及ぶ。怒りに震える Corbett と Ranulf は、Bell Manに迫ることができるのであろうか..。
読み終わると...
物語全体を覆う暗いムードの中での連続殺人事件はよく考えられており、中盤からはドラマティックな展開もあり退屈しません。
時に Doherty の作品では、謎に一貫性がなく犯人も別々などといったものや、人物の書き分けが十分でなく結末が腰砕け、というケースもあるのですが、今回その弊害はありません。 Sparrow Hall にいる人物はうまく描かれており、Bell Man の正体と動機も説得力のあるものとなっています。ただ、密室トリックは大したものではないので、期待すると裏切られます。
今回はシリーズ10作目ということで、派手な展開を盛り込んだようです。終盤で犯人に死を迫る Ranulf など、なかなかの迫力ものです。さらに、なんと物語の最後では、Corbett 自身がクロスボウで襲撃され倒れてしまいます。まあ、彼は主人公ですし、続編も出ていることを考えると大丈夫でしょうけどね。