The Five Red Fingers ( Brian Flynn )

平板なストーリー展開と、辻褄合わせの結末。小説としてもミステリーとしても今一つの出来でしたね。


Brian Flynnの作品は、これまで「The Billiard Room Mystery(1927)」「The Case of Black Twenty-Two(1928)」「The Murders near Mapleton(1929)」と読んできましたが、どれもひとひねりある展開で作者の曲者ぶりを楽しませてもらいましたが、今回は第5作目にあたる「The Five Red Fingers(1929)」を取り上げます。


こんな話

今回は競馬界が舞台。

南アフリカ出身の富豪 Julius Maitland の念願は、自身が所有する競走馬 Red Ringan がダービーで勝つことであった。彼の若い後妻 Ida もまた Princess Alicia という馬を所有しており、ダービーへ出走を望んでいるのだが、夫のJuliusは反対しているという。
ところがダービーの前日、彼は突然「南アフリカに行く」と言い出し、家を出てしまう。反対していた夫が不在となった中、Idaは自らの馬Princess Aliciaをダービーにエントリさせることに決意する。
さて、当日のレースでは、Red Ringanがダービーを制し、Princess Aliciaは僅差で2位に入ったのであった。Juliusの悲願達成と思われたのであったが、ここから意外な事件が待ちかねていたのである。

ここまでが約1/4というところ。正直言って展開がゆっくりしていて、いささか退屈でしたね。

さて、そのダービー当日、 Friningham という田舎町の警察署に「殺される」と叫ぶ男性の電話が入ってきていた。しかも奇妙なことに、電話を受けた警官には、悲鳴の後にドスンという音と妙な笑い声、そしてなぜかバイオリンが聞こえたというのだ。
現場のバンガローに急行した彼らが発見したのは、射殺された Julius Maitlandの遺体であった。検死にあたった担当医は、彼の死亡時刻は数日前だという。であるとしたら、あの電話の主は誰だったのであろうか。

さらに重要な事実が判明する。もし、Juliusがダービーより前に亡くなっていたとしたら、Red Ringanは出場資格を失っており失格。2位のPrincess Aliciaが繰り上げとなるのである。

センセーショナルな動きの中で、捜査担当となった警察署長 Sir Austin Kembleは、友人である Anthony Bathurstを呼び出し、協力を依頼するのであった。


読み終えると..

最初に言ってしまいましょう。身も蓋もない感想で申し訳ないですが、この作品「つまらない」です。
まず、前半が長すぎて退屈。そもそもFlynnという作家は、登場人物の造形は薄っぺらだし、ストーリーテリングもうまくない。そんなレベルで、事件が起こるまでの展開を長々と書かれたら、読み進むのも一苦労です。Flynnの持ち味は、小説家としての力量をカバーする「意外な展開」にあると思うのですが、この作品では全く影を潜めています。
それに加えて、今回の作品はミステリとしても面白さがありません。ラストでは名探偵Anthony Bathurstが関係者を集めて、「さて..」と始めるのですが、今作品で唯一の魅力だった警察にかかってきた「謎の電話」の正体もがっかりするものでしたし、判明した犯人は「こんな人、いたっけ」というレベル。これではどうしようもありません。

今回は、Flynnの魅力が全く生かされていない残念な出来となっていました。50作以上書いた作家ですから、中にはこんな作品があってもしかたがないでしょう。次作に期待したいと思います。