The Leprechaun Murders ( Adrian Reynolds )
伝説の妖精や徘徊する人形という不気味な雰囲気のなか、ラストまで読ませてくれます。
今回紹介する「The Leprechaun Murders」は、Adrian Reynoldsによる1950年の作品。
この名前に馴染みはないでしょうが、Amelia Reynolds Long(アメリア・レイノルズ・ロング)という名前の作家ならご存知の方も多いかもしれません。日本では、論創海外ミステリから「誰もがポオを読んでいた」と「死者はふたたび」の2作品が翻訳されているようです。Longは、様々なペンネームで作品を発表していますが、Adrian Reynoldsは、そのうちの一つです。
Amelia Reynolds Long (1903-1978)について
Longについては、このサイトに、詳しい紹介があります。
これによると、Longの作家としての経歴は、1930年代のパルプ雑誌にSF作品を発表したのがスタートのようです。SFコレクターで有名なフォレスト・J・アッカーマンが代理人をしていたこともあるとのこと。
1940年以降はミステリに軸足を移し、様々なペンネームで作品を発表しています。上記のサイトによると、その作風は「アガサ・クリスティの影響下にある伝統的なフーダニット」ということです。
ただ、今回の作品もそうですが、PHOENIX PRESSのようなマイナー出版社から出版されたものがほとんどなので、現在では忘れられた作家と言って良いでしょう。
さて、それでは今回の作品「The Leprechaun Murders」に移りましょう。
こんな話
主人公の探偵は、Dennis Barrieという大学教授。
突然の豪雨に見舞われ、近くのバーにあわてて駆け込むはめとなったDennisは、そこでOwney Maloneという老人に出会う。何杯かグラスを重ねるうちに酔っ払った老人は不思議な話を始める。彼は、その名もMr.Hanniganという名のLeprechaunと話ができるようになったのだという。
Leprechaun(レプラコーン)とは
ウィキペディア(Wikipedia)によると、
レプラコーン (英: Leprechaun) は、アイルランドの伝承に登場する妖精。
で、
地中の宝物のことを知っており、うまく捕まえることができると黄金のありかを教えてくれるが、大抵の場合、黄金を手に入れることはできない。
というもの。全く知りませんでした。
さて、Owney Maloneは、このMr.Hanniganに、ある依頼をしているらしい。「愛する孫娘の夫、Bert Hendersonを消し去りたい」というのが彼の望みで、そのためにMr.Hanniganへ5000ドル払う用意をしているのだという。
Dennisは、寝てしまったOwneyをMalone家まで連れ帰るはめになる。そこでは、Malone一家と近隣の人々がホームパーティを開いていたのだった。読者への登場人物紹介にぴったりの展開です(笑)。
その中の一人、Bensonという男は、「The Great Bensoni」という名で知られた芸人で、人形を使った一人芝居で有名だったという。パーティの場でも見事なパーフォマンスを見せていたのだった。
人形が徘徊する夜
結局、Dennisは、Malone家に泊まることとなる。深夜、目が冴えてしまった彼がふと窓の外を見ると、90センチぐらいの直立した動物が徘徊していることに気がつく。猿だろうか、それにしてはしっぽがない。謎の生物が月明かりに照らされた時、Dennisの目にその顔がはっきりと写った。
それは「The Great Bensoni」の人形ではないか。なんと人形が徘徊しているのだ。
失踪事件、死体消失、そして殺人...
翌日、大きな事件が起きる。Owneyが「消し去りたい」と願っていた孫娘の夫、Bert Hendersonが本当にいなくなってしまったのだ。Owneyは、Mr.Hanniganが5000ドルの代償にやってくれたと言うのだが...。
さらに、隣家のMiss Marpleが「見知らぬ男の死体を発見した」と駆け込んでくる。しかし、一同が行ってみると、そこには死体はなかった。意識が戻って立ち去ってしまったのだろうか。
そして、ついに秘密の通路の中に隠されたBert Hendersonの死体が発見され、事件は新たな展開を見せていく...。Owneyの依頼を受けたDennisは、シェリフのWarnerと協力し、この事件に関わることとなるのだった。
そのような状況の中、死体発見騒動の張本人Miss Marpleは、とある事実から犯人の正体に気づき、Dennisに伝えようとしたのだが...。
ここまでの展開は見事だったが...。
このあたりまで、なかなか見事な構成です。人形が徘徊する夜はなかなか怖いし、妖精に依頼した事件が現実化していくあたりは、Paul Halterを思わせる展開ですね。
また、中盤で明かされる真相は、なかなか面白い。特に、Dennisが目撃した人形の謎の解明には、説得力があって感心しました。これが真相であっても悪くなかったと思わせるほどの出来です。人物の隠蔽工作をもう少しうまく書き込んでおけば、合理的でかつ意外性も兼ねそろえたプロットになったような気がします。
しかしながら、サービス精神に溢れた(?)作者はさらなる展開に進んでしまいます。残念ながら、これ以降犯人の正体はミエミエであり、興醒めとしか言いようがありません。
最後はいささか腰砕けの巻はありましたが、それでも十分面白い作品です。
最近、Amazon Kindleでは、クラシックミステリが安価でリバイバルされているので、Amelia Reynolds Longの作品もその波に乗ってくれると良いのですが。
PHOENIX PRESS 1950年 222ページ