The Man Who Loved Clouds ( Paul Halter )

“妖精"が予言する3つの連続殺人、その意外な展開が面白い。楽しく読めました。


今回、読むのは...

Paul Halter ( ポール・アルテ ) の1999年の作品「The Man Who Loved Clouds」を取り上げます。WIKIPEDIAによれば、Dr.Twist物の14作目で、作者中期の作品となります。
前回読んだ「The Picture from the Past」がなかなかの出来だったので、今回も期待しましょう。


こんな話

時は1936年6月。舞台は風の強い田舎村、Pickering。
ある女性を中心に、話は進みます。

“妖精"のように、人智を越えた能力を持っている..?

ジャーナリストのMark Reederは、たまたま訪れたPickeringという村で、不思議な女性の噂を耳にする。

彼女の名前は、Stella Deverell。

彼女には超自然的な能力があり、多くの人々がそれを信じているらしい。興味を引かれたMarkは、村人に話を聞いてまわるが、すでにいくつかの不可思議な現象があるという。

  • 消失
    ある地点から風のように消え失せてしまうことがある。これには複数の目撃者がいて、その中には地元警察も含まれていた。捜査員が見守る中、彼女は林のあるスポットから忽然と消えてしまったのだという。
  • 予言
    父親の死も予言していたと言われる。実際にその数日後、父親は崖から落ち死亡した。
  • 錬金術
    物を金に変える力を持つという。教会の牧師は、ある日金塊の寄付を受けるが、それはStellaが作り出したものと信じているようだ。

Stellaは領主一家の娘だったが、両親はすでに死亡。母親のDorothyは早逝、父親のJohnは2年前に自殺を遂げたのだという。Johnは経済的な能力に欠如しており、死の直前に一家は破産状態であった。
彼の死後、領主館はGerald Usherという人物に買い取られ、Stella本人は名付け親と細々と暮らしている。

ある夜、Markは領主館の庭で散歩する “妖精” のようなStellaに出会う。互いに心惹かれた二人は、さらに出会いを重ね、親密さを深める。
彼女はMarkに、自分の不思議な能力は、「風から予言を受け取る」のだと打ち明ける。

そんなある日、Stellaは「村人であるCharles Trentが近いうちに亡くなるだろう」と予言する。

予言が次々と現実に...

Charles Trentは、彼女の予言どおり、崖から落ちて首の骨を折り、死亡する。

その後もStellaは、死の予言をくりかえす。

2番めの男は、Markの眼の前で、風に巻かれるように崖から転落死する。
3番目の男は、厳戒していたDr.TwistとInspecter Hurstの前から忽然と姿を消し、屋敷から半マイルも離れた場所で発見された...

Stellaは、本当に"妖精"であり、超能力者なのだろうか。3つの変死は殺人なのだろうか。そうであれば、犯人は...


さて、結末は...

メイントリックは十分な意外性もあり、よく考えられています。
まあ、現実的にどうかと思う点も少なくありませんが、この時代と舞台設定なら許せる範囲でしょう。
ただ、冷静になって振り返ると、犯人の行動はいささか必然性に乏しい。何もしないほうがよほど犯行露見の可能性が低いでしょう。まあ、作者は必死に犯人の異常性を強調していますので、そういうことにしておきましょうか。
また、このあたりからDr.Twistは簡単に犯人を追い詰められたはずなのですが、これまた動きが悪い。ちゃんと捜査を進めていたら、嵐の夜に見張りをする必要もなかったのに、ご苦労さんです(笑)。

少しチャカしましたが、全体的なリーダビリティは高く、楽しく読めました。
ただ、中心となるStellaという女性の魅力は今ひとつ浮かび上がってきません。妖精という表現が何回も出てきますが、イメージが希薄で、あまり神秘的な感じがありません。単なる小娘レベルに留まっているので、読後に余韻が残りません。

小さな傷や矛盾する構成もありますが、

「とことん不可能設定を追求し、読者を楽しませよう」という作者の変わらない姿勢に敬意を表したい

と思います。