The Narrowing Lust ( Henry Kane )

密室トリックはともかくも、ハードボイルドミステリとしての出来がよくない。


 前回紹介した「密室殺人傑作選(H・S・サンテッスン編)」では、長編が2作省略されていましたが、今回はその中で未訳の作品、Henry Kane の「The Narrowing Lust(1956)」を読んでみます。
 作者の Henry Kane(1908-1988) はニューヨーク生まれ。1950-60年代には、私立探偵 Peter Chambers を主人公とするハードボイルド物でかなりの売れっ子でした。日本でも「地獄の椅子」、「マーティニと殺人と」の二作がハヤカワポケットミステリで翻訳されています。
 さて、「密室殺人傑作選」に選ばれた「The Narrowing Lust」は1956年の作品。編集者のサンテッスンは、下記のように紹介しています。

Peter Chambers, one of the more credible representatives of that school of intuitive detection associated with private eyes, does battle with the ungodly in this novel about lovely ladies and an impossible murder which has taken place—yes, you were right—under classic Locked Room conditions.
ピーター・チェンバースは、私立探偵に関連する直感的な探知の流派の最も信頼できる代表者の一人であり、この小説では、美しい女性たちと、典型的な密室の状況下で起こった不可能な殺人事件(そう、あなたの言う通り)について、邪悪な者たちと戦います。(Google 翻訳)

さて、どんなものでしょうか。


こんな話

 Peter Chambers は、バーを経営する女性 Carlotta Cain から、Gordon Clark という男を捜してほしいとの依頼を受ける。Gordon は中古車販売に乗り出しており Carlotta は、その事業に投資をしているのだが、ここ数日姿が見えず、連絡も取れないのだと言う。

 依頼を受けた Chambers は、関係者に話を聞きに回るのだが、その Gordon は、ガレージの中で亡くなっているのが発見される。彼は銃を握っていたままの状態で見つかったのだが、検視の結果、それが凶器であることは検証された。
さらに、発見現場のガレージの扉と窓は、内部からボルトがはめられており、誰も外部からはアクセスできない。このような状況から、Gordon は自殺を図ったものと警察はみなしたのである。

 Chambers は、一見自殺にしか見えない状況に疑問を持ち調査を始める。どうやら、Gordon が出資している事業には何らかの問題があるらしい。彼はそのトラブルに巻き込まれたのであろうか..。


読み終えると..

 とまあ、簡単にまとめるとこんな話なのですが...、正直言ってつまらない(笑)。

 ハードボイルド物といえば、探偵が様々な人間に出会い、事件を掘り起こしていくプロセスと、そこから生まれる新たな展開でストーリーを盛り上げ読者を引き込んでいくのですが、この作品にはその面白さがまったくありません。
作者の Henry Kane は、B級ではありますが、ハードボイルド作家としてそれなりの地位にある作家ですから、コツは心得ていると思うのですが、この作品はあまり出来が良くありません。ラストで意外な犯人でも指摘されれば、まだ救いがあるのですが、これも「誰だったけ、この人」というレベル。
 密室トリックも「これしかないだろうな」と思っていたら、予想通り「よくあるやつ」でした。作者は「密室トリック」を作品のメインテーマには考えていないのでしょうから、これは致し方ないでしょう。ただ、とても「密室殺人傑作選」に選ばれるべき作品とは思えませんでした。


初刊のハードバックは「The Locked Room Reader」として一冊にまとまっているのですが、ペイパーバック版は、「8 Keys toMurder」と「8 Doors to Death」の二分冊となっています。今回読んだのはこちら。

8 Keys toMurder
First DELL Printing - June 1970 256ページ 95c

8 Doors to Death
First DELL Printing - July 1970 256ページ 95c