The Picture from the Past ( Paul Halter )
二部構成で楽しく読める。トリックは少し無理があるが、意外な犯人は面白い。
Paul Halter ( ポール・アルテ ) とは
Paul Halter ( ポール・アルテ ) はフランスミステリー作家。密室などの不可能犯罪を描く作家で、フランスのカーと呼ばれているらしい。
翻訳事情(日本)
日本では2000年代始めから、ハヤカワ・ポケット・ミステリとして9作翻訳されましたが、2009年以降、出版が止まっています。
翻訳事情(アメリカ)
当時、英訳は全くありませんでした。
しかし、2010年を過ぎてからアメリカでは、John Pugmireという方がHalterを積極的に紹介しはじめて、現在では英語で読める本が日本のそれを上回っています。
今回、読むのは...
今回、Kindle unlimitedを始めようとした一つの動機として、Halterの作品が複数対象になっていることが挙げられます。
その中から、まずは「The Picture from the Past」を選んでみました。
この作品は、WIKIPEDIAによれば、Dr.Twist物の9作目で、
L’image trouble (The Blurred Image) 1995 (Translated as The Picture from the Past, Locked Room International, 2014)
となります。
早めに結論
結論から言いますが、この作品面白いですよ。まず、リーダビリティが高い。
トリックには、「そりゃ無理でしょ」と思うところもありますが、Halterならではの意外性を重視した展開には好感が持てます。
ストーリー
さて、この作品は、二つの舞台が交互に進む形式で構成されています。
一方は現代
と言っても1959年で、ここでは酸の風呂で死体を溶かすという六つの連続殺人事件が世間を騒がせている中での物語です。
プロローグでは、Dr.TwistとInspecter Hurstが、犯人のアジトらしき場所に踏み込むとことから始まります。
こちらの主人公であるJohn Braidは、最近Andreaと結婚し、とある田舎町に家を購入します。
彼は、ある写真を見ると恐怖ともなんとも言えない感覚になるという強迫観念にとりつかれおり、また過去に何か辛い体験をしているように見えます。
妻のAndreaは、それを心配するとともに夫の過去を探るべく、Graham Morrisという心理分析ができるという骨董屋に相談します。
ところが、分析がある程度進んだある日、Johnは衆人環視の中、まるで空気のように消失してしまいます。
もう一方の舞台は、過去のとある場所。
Jacobs一家は、夫人のAmeliaを三人組の暴漢に虐殺された過去を持ちます。
長男のJohnasはそれにショックを受けたのか、家をふいに飛び出し、それ以来ニ年近く行方不明の状態が続いています。
血の繋がっていない妹であり、婚約者でもあるPaulaは、もはや生きてはいまいと言われても、彼をひたすら待ち続けています。その中で弟のAdamは、兄を諦め自分と結婚するよう強くPaulaに迫ります。Paulaは致し方なく、正確に二年が経過した日の0時までに、Johnが帰ってこなかったら、プロポーズを受け入れると言ってしまいます。
さて、その日に...
Jack Atmoreという人間が密室状態の自宅で殺されるという事件が起きます。
彼は、Ameliaの死を予言した過去を持っているため、それを恨んでいるJacobs家の人間が容疑者とされます。
一方、Jacobs家にも大きな動きがありました...
このように2つの事件が交代に描写されていきます。
正直言って、個人的にこの形式はあまり好きではありません。舞台の切り替えのたびにリズムが途切れてしまうので、今ひとつ集中できない状態に陥りがちだからです。しかし、この作品では十分に緊張感を持って進んでいきます。
いったい、どんな解決をつけるのか心配してしまうような展開です。結局、どちらにも合理的な解決が提示されハッピーエンドとなるので、読後感は悪くありません。
ただ、このトリックは少し辛い。細部は言えませんが、現実世界ならすぐわかってしまうでしょう。
「見えない人」とは言わせんぞ
ところで、Jack Atmore密室殺人の発見者は郵便配達人なのですが、こいつがやたらアクティブなのです。
被害者の直接郵便を渡すべく窓に近づいて異常を確認、すかさず窓を割って鍵を解錠、室内に入り被害者の手が冷たいことに気づきます。普通ならこの段階で警察に通報するでしょうが、この男はそうはしない。
まず室内を捜索し犯人が隠れていないか、さらにドアや窓の鍵が中からかかっていることを確認したうえで、「犯人はどこへ消えた」と叫ぶのです。密室物の登場人物はそうでないといけません。
おまけに持ってきた手紙まで盗み読むという始末。その行動力たるや、なんとも気合に満ち溢れておりました(笑)。
Halterの英訳
さて、Halterの主人公探偵には、Dr.TwistともうひとりOwen Burnsという主人公がいます。
最初の二作「The Lord of Misrule」と「The Seven Wonders of Crime」が、2012年に英訳されました。早速読んでみたのですが、これがあまり面白くありません。
Title | Author | Publisher | Point | Comment | Date |
---|---|---|---|---|---|
The Lord of Misrule | Paul Halter | Createspace | 6.0 | どうもストーリー展開に乗り切れなかった。謎そのものは魅力的なのだが。 | 2012/07/12 |
The Seven Wonders of Crime | Paul Halter | Amazon Kindle | 4.0 | 全く緊張感がない。謎解きもパズルみたいで面白味もなく、人物にも魅力なし。 | 2012/09/12 |
特に後者はひどい出来なので、 「作品レベルの低下で翻訳が止まったのかもしれないな」という考えがよぎったのものでした。今回、それが誤解であることを確認出来たのは幸いでした。
英訳がTwistものではなく、なぜここから始まったのか。理由がよくわかりません。
去年辺りから別の出版社で、このシリーズの日本語訳が始まったようです。最初の二作をスキップしているのは、良い選択だと思います。
これを機会に、新たな読者がつくことを期待します。