The Three Fears ( Jonathan Stagge )
退屈させないストーリー展開とラストのひねりに感心。楽しく読めました。
作者「Jonathan Stagge」について
ミステリファンなら、Patick Quentin(パトリック・クエンティン)はご存知と思いますが、Jonathan Stagge(ジョナサン・スタッジ)は、彼の別名の一つです。
WIKIPEDIAによると、
Patrick Quentin, Q. Patrick and Jonathan Stagge were pen names under which Hugh Callingham Wheeler (19 March 1912 – 26 July 1987), Richard Wilson Webb (August 1901 – December 1966), Martha Mott Kelley (30 April 1906 – 2005) and Mary Louise White Aswell (3 June 1902 – 24 December 1984)
とのこと。上記のように、複数の人間が関わっているペンネームなのですが、Jonathan Staggeは、上記のWebbとWheelerによる合作の模様です。
なお、Q.Patrick名義で書かれた犯人当て小説、File on Fenton and FarrとFile on Claudia Craggeは、すでにレビューしておりますので、参照して頂くと幸いです。
これまでに読了したJonathan Stagge
Staggeの 作品は、Dr.Westlakeを探偵役とする全9作に渡るシリーズです。
これまでStaggeは下記の作品を読んでいますが、それほどの評価ではありませんね。まあ、この頃の採点はいささか厳しいので、+0.5ぐらい加点しても良い気がします。
Title | Publisher | Point | Comment | Date |
---|---|---|---|---|
Dogs Do Bark(1936) | Popular Library | 6.5 | 動機は面白いが、少し古さを感じる。犯人も検討がつくが、悪い出来ではない。 | 1998/12/23 |
Murder By Prescription(1937) | Popular Library | 6.5 | 犯人の見当が簡単につくのが欠点か。出来は悪くないが。 | 1999/07/14 |
Stars Spell Death(1939) | Popular Library | 6.0 | 結局スパイ小説もどきになってしまった。発端は面白いのに。 | 1999/12/29 |
Turn of the Table(1940) | Popular Library | 7.0 | 中盤から盛り上がった。犯人の設定も巧みである。 | 2000/08/24 |
The Yellow Taxi(1942) | Popular Library | 6.0 | シリーズ物の面白さはあるが、意外性に乏しく緊張感もない。 | 2003/08/25 |
The Scarlet Circle(1943) | Popular Library | 7.0 | 動機はわかるが楽しく読める作品。時間がかかりすぎて今一つ乗れなかったのが無念。 | 2006/02/10 |
Death’s Old Sweet Song(1946) | Doubleday | 6.0 | 前半の展開が今一つ。殺人の動機が説得力なし。 | 2008/12/11 |
さて、今回の「The Three Fears(1949)」は、そのWestlakeシリーズ最終作品となりますが、いかがなものでしょうか。
こんな話
Dr.Westalakeが休暇を利用して、友人の医師であるDonとTansyのLockwoods夫妻の家に滞在するところから話は始まります。
Lockwoods家の近くには、The Divineと呼ばれる舞台俳優、Daphne Wintersが居を構えており、彼女はマネージャーであるEvelyn Evansとともに、Five Sweet Symphoniesと呼んでいる5人の女優の卵を寄宿させていた。
また、America’s Most Beloved Actressと呼ばれている女優Lucy Millikenも近在にあり、若い夫のMorgan Lane、先夫との娘Sprayと暮らしていたのである。現在、二人は舞台の配役を巡って、ライバル関係にあるようだ。
ある日、DaphneはMilliken家主催のティーパーティーに招待される。一家はここでラジオショーを企画、そのまま放送しようという計画らしい。周囲の反対を意に介さず、DaphneはFive Sweet Symphoniesを引き連れ、パーティに参加したのだが、ここで大きな事件が勃発する。
放送に緊張したのか、Sweet Symphoniesの一人であるGrechenが頭痛を訴えたので、Daphneは自分のクスリを与えたのだが、何とそれには猛毒のシアン化物が含まれていたのである。当然のことながら、Grechenの死はDaphne毒殺を狙ったものとされた。
さて、大女優Daphne Wintersは、幼少の経験から大きなトラウマを抱えていた。「毒」、「閉所」、「火」、この3つに対する病的な恐怖である。(ちなみに、題名の「The Three Fears」とは、この3つを指しています。)
誤殺とされたこの事件以降にも、Daphneの身には次々に災厄が降りかかることになるのだった。再度の毒、閉所への監禁、そして別館の火事..。
そんな中、Dr.Westlakeは、SybilというSweet Symphoniesの一人から相談を受ける。彼女は事件の鍵になる何かを発見したようなのだ。しかし、そのSybilは別館の火事に巻き込まれ、死体となって発見されてしまう。
Westlakeは、Sybilの生前の行動から、ある事実に気がつく。果たして、この一連の事件は、本当にDaphneを狙ったものなのだろうか..。
読み終えると..
何といっても、連続して起きる一連の事件が読者を退屈させません。ほとんどの作品は、中盤でだれてしまう部分がどうしてもあるものですが、本作は序盤から終盤まで「息をつかせない」と言うと大げさですが、十分な緊張感を持続しており、そのリーダビリティに感心します。また、ラストでは「解決したと思われた結末からの切り返し」といった趣向も用意されており、ミステリファンの期待を裏切りません。この作品、Jonathan Stagge名義の最終作ですが、最高作と言っても過言ではないでしょう。
個人的に、1950年以前のQuentinでは、「The Grindle Nightmare(1935)」、「Puzzle for Players(1938)」を高く評価していたのですが、この「The Three Fears(1949)」もこれらに匹敵する出来だと言えます。
さて、作者のQuentinですが、1950年以降はモダンなサスペンス物へと作風を大きく転換していきます。ストーリー展開は、事件に巻き込まれた人物の視点から描かれる形になり、探偵役が表に出たクラシックミステリからは、遠ざかっていくことになりました。この時期の作品にも、レギュラー探偵であるトラント警部は登場しますが、基本的に裏方、脇役であり、表に出ることはなくなっています。
もちろん、その中で「わが子は殺人者(1954)」「二人の妻を持つ男(1955)」のような後世に残るベスト10クラスの作品を残したわけですから、その転身は100%成功であったと言えるでしょう。
先に、Quentinの作品は複数人による合作であると述べましたが、この転換期以降の作品は、ほとんどWheeler単独の作品のようです。探偵役を全面に出したクラシックミステリへこだわりを見せていたのは、合作者だったWebbなのでしょう。先のWIKIPEDIAにも、
When Webb bowed out on the writing, these characters disappeared or receded into the background.
とあるように、Webbの退場と共にJonathan Stagge名義のDr.Westlake物も終わりを告げたということなのでしょう。しかしながら、本作品の出来を考えると、最終作になってしまったのは非常に残念と言わざる得ません。
Doubleday 1949年 188ページ
(追記)
Staggeの作品、Kindleで復刊されていることに遅まきながら気が付きました。