マウスコンピューター「WN891」で遊ぼう ( その6 純正ChromsOSをインストール、Android、Linuxまで動かしてみる )
最近、Chromebookが流行のようです。その背景には、文部科学省の「GIGAスクール構想」や「テレワークの拡大」にあると言われてますが、それ以上にChromebook本来の「使いやすさとコストバランスの良さ」が評価されてきているのではないでしょうか。
昨年(2020年)末から登場した「Lenovo ideapad Duet」や、「ASUS Detachable CM3」のように、3万円前後で買える新機種の登場が、その人気に拍車をかけている模様です。
Chromebookの特徴は、Chromeブラウザが非常に快適に動くことですが、ほとんどのAndroidアプリが動くことも、大きな魅力の一つでしょう。上記のようなセパレートタイプのマシンであれば、タブレットとしても使えるわけで、豊富なAndroidアプリが活用の場を大きく広げ、ユーザー拡大に貢献しているというわけです。
また、最近では、Linux環境までサポートされていることも無視できません。本来、ChromeブラウザやAndroidアプリは、主に情報検索や動画鑑賞といった一般ユーザーのニーズに対応するアプリケーションです。ここにLinuxサポートが加わることで、「開発者のニーズにも対応できるマシンに変貌している」とも言えるでしょう。
WN891にChromeOSはインストールできないのか?
さて、昨年から色々遊んできたマウスコンピュータ製の「WN891」ですが、非力なAtomプロセッサに2Gメモリという構成にXubuntuを入れて、なんとか動くレベルにしてみました。しかし、WN891は、8.9インチディスプレイの2in1セパレートモデルです。この形態を活かすのに、Linuxが最適とは思えません。
そこで考えたのが、このWN891に「ChromeOSは入れられないか」ということでした。
まず、すぐ頭に浮かぶのは、フリーのChromiumOS、例えば「Cloud Ready」という選択でしょう。Webを検索すると、古いノートPCにインストールしている事例が多数紹介されています。しかし、「Cloud Ready」では、Androidが動かないので、2in1セパレートモデルのメリットを活かしきれません。そもそも、単にChromeブラウザだけだったら、Xubuntu上で動かせばすむ話です。
やはり、Androidを動かしたい。
さらに調べてみると、中国製の「FydeOS」なるものは、Androidが動くらしい。しかし、中国のサイトからダウンロードするのはいささか躊躇するものがあります。これはやりたくないし、機能面でもLinuxが動くかどうかは不明。ということで、これも対象から外しました。
そんなことを色々考えていたら、なんとインテルPC上で「純正のChromoOSを動かす方法」があるという情報を見つけました。
それが、「Brunch Framework」というツールです。
Brunch Frameworkとは
このサイトに概要が説明されています。それによると、
The purpose of the Brunch framework is to create a generic x86_64 ChromeOS image from an official recovery image. To do so, it uses a 1GB ROOTC partition (containing a custom kernel, an initramfs, the swtpm binaries, userspace patches and config files) and a specific EFI partition to boot from it.
要するに、「ChromebookのRecoveryイメージを、X86_64形式に変換し、PC上でChromeOSとして動かす」という仕組みですね。その変換部分を実行するのが、「Brunch Framework」というわけです。
サポート対象となるPCは、主にIntelアーキテクチャで、
- x86_64 computers with UEFI boot support
- Intel hardware (CPU and GPU) starting from 1st generation “Nehalem”
ということです。WN891はなんとか対象範囲に入っているようなので、やって見る価値はありそうです。
インストール方法など
さて、そのインストール方法ですが、「Linux Mintのインストーラを使う方法」が一番簡単なようです。
ようするに、
- Linux MintのISOイメージを、USBメモリに書き込む。
- そのUSBメモリ上に、「Brunch Framework」と「Chromebook Recovery image」をコピー。
- Mintのインストールではなく、ターミナルからBrunch Frameworkのインストーラを起動させる。
という手順になります。
これについて調べてみると、すでに、Web上で色々なサイトで紹介されているようです。わたしが見た範囲では、「PC-FREEDUM」さんのサイトに書かれている内容が、非常にわかり易いと思いますから、まずは、そちらを参考にしてください。
WN891での変更点
ここでは、WN891に関して、2021/04現在での変更点をまとめておきます。
-
Bruch Framework
ここから、最新の「Brunch r89 stable 20210403(brunch_r89_stable_20210403.tar.gz)」をダウンロード、解凍します。 -
Chomebook Recovery Imageの選定
Brunchのドキュメントには下記のように書いてあるので、ここでは、“sammus"を使ってみましょう。
“rammus” is the recommended image for devices with 4th generation Intel CPU and newer.
“samus” is the recommended image for devices with 3rd generation Intel CPU and older.
“zork” is the image to use for AMD Ryzen.
“grunt” is the image to use for AMD Stoney Ridge.
ここ にアクセス、"samus“を見つけ、最新の89をダウンロード、解凍します。
- installスクリプトの変更
ダウンロードしたinstall.shの最終行を、Recovery imageとWN891の環境に合うように変更しておきます。
#sudo bash chromeos-install.sh -src rammus_recovery.bin -dst /dev/sda
sudo bash chromeos-install.sh -src chromeos_13729.56.0_samus_recovery_stable-channel_mp-v3.bin -dst /dev/mmcblk1
作成した下記の6ファイルを、適当なディレクトリ("/ChromeOS_Install"とでもしておきましょう)にまとめ、Linux Mintのインストールディスク(USBメモリ)にコピーしておきます。
chromeos-install.sh
chromeos_13729.56.0_samus_recovery_stable-channel_mp-v3.bin
efi_legacy.img
efi_secure.img
install.sh
rootc.img
インストール手順
(1) Linux Mintのブート
WN891に、Linux MintのUSBメモリをさしてブートします。
手順は、マウスコンピューター「WN891」で遊ぼう(その4 Linuxをインストールしてみる)と同様です。XubuntuをLinux Mintに読み替えてください。
上記で説明しているように、
- 事前に”bootia32.efi”を、USBメモリの”/EFI/BOOT”にコピーしておくこと。
- 「BIOS設定」で「Secure Boot」を「Disabled」に設定すること。
- 「Boot」でUSBメディアをトップに持ってくること。
を忘れないでください。
また、ブート後は、「2. インストール (1) 画面を回転させる」で説明した手順で、Terminalを出して、画面を回転します。
(2) Brunch Frameworkの実行
ここからが、「Brunch Framework」によるChromeOSのインストールになります。
まずは、wifiに接続します。これは必須ですので、接続しないと先に進めません。
つぎに、起動させているTerminalから、インストールコマンドを入力します。
確認の画面が出ますので、‘yes’と入力し実行します。
インストールが終了すると、Terminalのプロンプトに戻るので、手動でLinux Mintを終了させます。
(3) ChromeOSの起動
再度、電源を入れます。
初期化にはそれなりの時間がかかりますが、完了後、ChromeOSが起動します。
画面は横向きのままですが、気にせず進めましょう。
ここから先は、ChromeOSの指示に従って、Googleにログインしていけば完了です。
なお、画面を横向きにするには、初期作業完了後、ChomeOS上の「設定」→「デバイス」→「ディスプレイ」で、向きを”90°”に変更します。
これでインストールと初期設定作業は完了です。
評価
インストールから設定まで完了しました。次は実際に使用し、「WN891上のChromeOS」について評価していきましょう
(1)標準機能、WN891での操作性など
まずは、基本機能です。
- 音声
問題なく出ます。 - 音声調整、輝度調整
これも問題なし。PFキーでの増減も可能です。 - タッチスクリーン
Chromeでタッチが効きますし、ソフトウエアキーボードも使えます。 - サスペンド
これも機能しているようです。単に画面を閉じただけで、サスペンドします。
Chomebook用の特殊キーがないので最初は戸惑いますが、ショートカットキーで対応できます。特殊キーは、PFキーにマッピングされていますので、 こちらの情報などを参考にしてください。まずは、PF01が”戻る”に対応していることだけ覚えておけば、なんとかなります。
次に問題点。
- 画面ローテイトが効かない
先に説明したように、「設定」から回転させる必要があります。タブレットとして使いたくなったときに、この手順は面倒ですね。 - カメラはもちろんだめ
次にアプリですが、Chromeは、比較的滑らかに動きます。今まで、WN891上で使ってみたWindows10や、XubuntuのFirefoxよりいい感じです。Chrome上のYoutubeも、まあ我慢できるレベルのレスポンスでしょう。
(2)Androidアプリ
次にAndroidですが、特に何もしなくてもAndroid環境は最初から導入されており、Google Playが使えます。
- Youtube
Android版のYoutubeもインストールできます。ただ、こちらは再生開始段階で、停まってしまうケースが時々見られました。たぶんリソース不足でしょう。Chromeブラウザ上で動かすのが無難といったところです。 - Amazon Prime Video
これは問題なく使えています。いくつかの番組を見ましたが、異常はありませんでした。 - Amazon Kindle
非常に遅いですが、なんとか使えます。
そもそも、Kindleはどのマシンで動かしても、動きが悪く鈍重ですけどね。大嫌いなソフトなので、わたしはAmazonで書籍を買っても、変換して他のツールで読むことにしています。 - Perfect Viewerなどのビューワー
コミックや青空文庫などは、何の問題もないでしょう。
全体的に見て、Wn891をAndoridマシンとして使ってみると、やはり「一昔、いや二昔前のタブレット」という印象を拭えませんでした。
(3)Linux
”Crostini”と呼ばれている機能です。
まだ、ベータ版のようですが、「設定」から「デベロッパー」をたどると、「Linux開発環境(ベータ版)」というタグが現れます。これをオンにすると、仮想マシンのセットアップが始まり、Linux環境が構築され、ターミナルが立ち上がってきます。
Debianが入るようなので、”apt”で必要なソフトを導入していけば、問題なく使えます。
日本語環境は別途設定が必要となります。このあたりについては、「Chromebook Crostini 日本語」あたりで検索すれば色々な情報が出てきますから、それを参考にすればよいでしょう。
Crostiniで特筆すべきことは、「Xサーバーの導入なしでも、X環境のソフトが動く」ということでしょう。そういう意味では、Windows10のWSLよりも優れています。
また、Linux環境はそこでクローズしているわけではないので、何らかのデーモンを動かせば、標準のChromeからアクセスすることが可能です。
例えば、Linux環境でPython3を入れ、さらにpipで”jupyter”をインストールしたとしましょう。この環境で、Linux環境のターミナルから、”jupyter notebook”と入力すると、Chromeがちゃんと起動してきます。
こういう機能を見ると、ChromeOSは、開発マシンとしても使えそうな気がしてきましたね。
最後に
現実的に「WN891上のChromeOS」が使えるかといえば、微妙なところです。やはり、Atomプロセッサに2GBのメモリという構成は、明らかにリソース不足です。
ただ、現状、WN891が「放置された産廃状態」にあるのでしたら、「Chromebookの機能テスト用に取り出してみる」というのはいかがなものでしょうか。