あやつり裁判 幻の探偵小説コレクション ( 鮎川哲也編 )

戦前の作品は悪くないのに、戦後のものは全くだめ。進歩を感じないなあ。


題名 作者 評点 コメント
霧の夜道 葛山二郎 7.5 [新青年 昭和5年4月]思わせぶりな弁護士の弁舌がなかなか巧みなうえ、ラストで一ひねりするところもうまい。
古風な洋服 瀬下耽 4.0 [新青年 昭和3年5月]話にまとまりがなく、オチもよくわからない。
翡翠湖の悲劇 赤沼三郎 5.0 [宝石 昭和25年3月]ストーリー展開が平板で緊張感に乏しい。ただ、蛭を使った殺人トリックとは前代未聞、漫画じみていて妙におかしい。
あやつり裁判 大阪圭吉 7.5 [新青年 昭和11年9月]裁判賭博というアイディアはなかなかのもの。語り口にも工夫をこらすあたりに作者の実力が伺える。
蜘蛛 米田三星 6.5 [昭和6年4月]新青年傑作選2 怪奇・幻想小説編で読了済。
月下の亡霊 西尾正 7.0 [新青年 昭和13年7月]幻想的な雰囲気をうまく描いている。ラストのちょっとしたひねりも面白い。
麻痺性癡呆患者の犯罪工作 水上呂理 6.5 [新青年 昭和9年1月]題材は面白いのだが、ラストの展開が今ひとつスッキリしない。
煙突奇談 地味井平造 6.5 [探偵趣味 大正15年6月]ミステリーの愉しみで読了済。
花粉霧 蟻浪五郎 4.0 [宝石 昭和24年12月]素人くさい小説で、とても商業レベルに達していない。
吉野賛十 5.0 [探偵実話 昭和29年4月]ミステリーの愉しみで読了済。
海底の墓場 埴輪史郎 4.0 [別冊宝石 昭和25年2月]海底での連続殺人という設定は面白いのだが、いかんせんストーリーがつまらない。最後は『戦争は絶対に絶滅しなければいけない』だってさ。脱力物です。
  • このところ、『宝石』関係のアンソロジーを読んでいますが、昭和20年代に出てきた新人作家のほとんどは、プロレベルに達していません。特に昭和25年以降はひどい。珍しさを狙って選んだような作品は、読むに耐えません。このアンソロジーもしかり。戦前の作品のほうが数段面白いのだから、どうしようもありません。
  • 昭和20年代のミステリ界を振り返ると、戦後すぐの盛り上がりはあったものの、中盤からは一気に停滞。作家を見れば、横溝正史は飛び抜けていますが、本格物の高木彬光、記者物の島田一男あたりまでがプロ作家レベル。後は追って知るべし、という暗黒時代だったという気がします。

晶文社 一九八八年三月二五日初版 一九八八年六月一五日二刷 380ページ 2300円