宝石一九五〇 ( ミステリー文学資料館編 )

確かに昭和25年は雑誌「宝石」の全盛期なのでしょうが、目玉の長編の出来がこれでは説得力がありませんね。


題名 作者 評点 コメント
牟家殺人事件 魔子鬼一 4.0 [宝石25年4月]7つの連続殺人が慌ただしく進むだけで、何の面白味もない。今なら同人誌でも載せないレベル。
首吊り道成寺 宮原龍雄 5.5 [宝石25年8月]題材は面白いのだが、展開がゴタゴタしていてまとまらない。
四桂 岡沢孝雄 6.0 宝石25年11月で読了済。
贋造犯人 椿八郎 5.0 [宝石25年11月]偽札犯のモノローグが読みづらい。
妖奇の恋魚 岡田鯱彦 8.0 [宝石25年12月]屏風の中の鯉に恋する老人。語り口もうまいし後味もよい。
「抜打座談会」を評す 江戸川乱歩 [宝石25年5月]
信天翁通信 木々高太郎 [宝石25年3、6-8月]

 1950(昭和25)年の「宝石」に焦点を当てたアンソロジー。わたしも数冊持っていましたが、確かにこの年の「宝石」は輝いていました。今はもう手元にありませんが、写真が一枚残っていたので、これを載せておきます。

 左上が21年4月創刊号、その隣が今回「牟家殺人事件」が掲載された4周年記念の25年4月号ですが、その違いがよくわかります。戦後復興の勢いを感じる2冊ではないでしょうか。また、この4月号には岡田鯱彦の「薫大将と匂の宮」掲載されていたようです。全く気がついていなかったのですが、長編が2篇とはすごい。ちなみに、左下が前年24年4月号で、先に「鯉沼家の悲劇 本格推理マガジン(鮎川哲也編)」で紹介した宮野村子「鯉沼家の悲劇」が一挙掲載された号です。

 この隆盛については、日本人作家の頑張りと言うより海外作品の翻訳が解禁されたことにあるでしょう。このあたりについては、江戸川乱歩が、「探偵小説年鑑(1951年版)」の序文で解説しています。一部引用してありますので、参照ください。
ただ、その隆盛も長くは続かなかったようで、その勢いはこの年の後半から一気に落ちてしまったようです。翌年の「探偵小説年鑑(1952年版)」をふくめ、乱歩はかなりきつい口調で語っていました。

 個人的にその後の「宝石」もかなり見ていますが、特に昭和27年以降については覇気を感じない号が多く、1957(昭和32)年に乱歩自身が編集に乗り出すまで低迷を続けることになります。


光文社文庫 2012年5月20日 初版1刷発行 393ページ 857円