怪奇探偵小説集[続々] ( 鮎川哲也編 )

無名作家の読むに絶えない作品にうんざり。


題名 作者 評点 コメント
双生児 江戸川乱歩 6.5 [新青年 大正13年10月]双子の兄を殺害し、入れ替わった死刑囚の懺悔話。自らの偽装が裏目に出るというのが面白い。
双生児 横溝正史 5.0 [新青年 昭和4年2月]乱歩の作品とは逆に双子の夫の入れ替わりを疑う妻の話。結末が今ひとつ。
踊り子殺しの哀愁 左頭弦馬 6.5 [ぷろふいる 昭和8年9月]これまた双子ネタ。不思議な外人のモノローグと、結末のオチは悪くない。
皺の手 木々高太郎 4.0 [月刊文章 昭和11年8月]出来の悪い医学怪談。
抱茗荷の説 山本禾太郎 6.5 [ぷろふいる 昭和12年1月]地の文だけで暗い雰囲気を盛り上げていく手腕は中々なのだが、結末の展開が弱い。
怪船『人魚号』 高橋鐵 5.0 [オール讀物 昭和12年11月]人魚探しのためにすべてを捨てた老教授。さすがにここまで荒唐無稽だとね。
生きている腸 海野十三 4.0 [X 昭和24年2月]死んだ囚人の腸をペットのように飼う男。それは妙におかしいのだが、結末がひどい。
呪われたヴァイオリン 伊豆実 2.0 [探偵よみもの 昭和25年8月]ヴァイオリンを巡るエロ因縁話。読むに絶えない。
天人飛ぶ 朝山蜻一 3.0 [宝石 昭和28年5月]コルセットに執着する変態男の話。つまらない。
くすり指 今日泊亜蘭 5.0 [探偵倶楽部 昭和30年5月]MPからの依頼を受けた男は、過去の事件を探るが。結末はミエミエだな。
壁の中の女 狩久 6.0 [探偵実話 昭和32年2月]肺病で余命僅かな青年は黒衣の女に惹かれる。ラストのオチが皮肉である。
呪われた沼 南桃平 2.0 [探偵実話 昭和32年10月]狂人の女に劣情を催した男のエロ話。読むに絶えない。
墓地 小滝光郎 3.0 [宝石 昭和36年6月]自らの死を夢と思う男。これのどこが面白いのか。
マグノリア 香山滋 6.5 [推理界 昭和43年4月]事故で美貌を失った妻は幼馴染を嫉妬し殺意を抱く。夫はその阻止に動くのだが。晩年の作品だが悪くない出来である。
死霊 宮林太郎 4.0 [推理界 昭和45年6月]久しぶりに訪ねた男に友人の画家は、不思議な女との出会いを語る。陳腐な結末。 

編者鮎川哲也は「はじめに」にて、

先に出版した「怪奇探偵小説集」は「正編」「続編」ともに好評で、ここに「続々編」を出すことになった。

とし、更に続けています。

冒頭の二編は江戸川、横溝両氏がおなじテーマによって書き上げた、いわば競作ともい えるもの。これらの作品は個人全集もしくは選集に収録されたことはあるが、肩を並べるのは本巻が初めてのケースになる。そのほかに、左頭弦馬氏をはじめ、昨今では名を聞くことも稀れになった作家の珍しい秀作をとるべく努力した。

乱歩と正史の並びはともかくとして、後半の趣向は全く裏目に出たと言って良いでしょう。考えてみれば、「名を聞くことも稀れになった作家の珍しい作品」とくれば、「秀作となる可能性」は絶望的なパーセンテージですからね。当たり前の競争原理を無視したセレクションが面白いはずもなく、予想通りの結果となってしまいました。

なお、後に出た文庫版では、「皺の手」、「呪われたヴァイオリン」、「くすり指」、「呪われた沼」が割愛され、朝山蜻一の「天人飛ぶ」は「くびられた隠者」に入れ替えられたようです。上記の結果から考えると、妥当な見直しと言えます。 また、乱歩の弟である平井蒼太「嫋指」(評点3.0)が追加されていますが、文章がくどく、とても読めたものではありませんでした。乱歩の代筆をしていたのでは、という噂もあったようですが、この文章力では無理でしょう。

双葉社 昭和51年10月10日 初版発行 288ページ 680円
文庫版 昭和59年10月25日 第1刷発行 268ページ 340円