日本ミステリーベスト集成1 戦前編 ( 中島河太郎編 )

落ち穂拾いの感が強く、ぱっとしません。


題名 作者 評点 コメント
面影双紙 横溝正史 7.5 [昭和8年1月]爬虫館事件 新青年傑作選で読了済。
海豹島 久生十蘭 7.5 [大陸 昭和14年2月]オットセイが群れをなす極寒の島で暮らす男。不気味な中に哀れを感じさせる筆力はさすが。
俘囚 海野十三 6.5 [昭和9年6月]新青年傑作選2 怪奇・幻想小説編で読了済。
紅座の庖厨 大下宇陀児 7.0 [文学時代 昭和6年1月]胃弱の男が健啖家から胃を移植するという発想が面白い。ラストも効いている。
就眠儀式 木々高太郎 6.0 [ぷろふいる 昭和10年6月]フロイト流精神分析はその頃の流行りなのだろう。結末は予想通りで平凡。
人肉の腸詰 妹尾アキ夫(妹尾韶夫) 7.0 [新青年 昭和2年9月]人肉加工工場に誘い込まれた男。オチは予想できるが、読ませる。
煙突奇談 地味井平造 6.5 [探偵趣味 大正15年6月]ミステリーの愉しみで読了済。
渡辺温 5.0 [新青年 昭和2年3月]嘘と現実をミックスさせる展開だが、あまり面白くない。
屋根裏の亡霊 水谷準 5.0 [文芸 昭和11年4月]獄死したと思われた男とモスコーで会った新聞記者。陳腐な解決にがっかり。
殺された天一坊 浜尾四郎 6.0 [改造 昭和4年10月]大岡裁きのうらを語る前半は面白いが、肝心の天一坊が腰砕け。
状況証拠 甲賀三郎 6.5 [新青年 昭和8年9月]よく考えられたストーリーなのだが、読む側にとっては少し複雑に思えるのが残念。
蛇男 角田喜久雄 4.0 [ぷろふいる 昭和10年12月]何が書きたかったのかよくわからない陳腐な幻想物。
屍くずれ 渡辺啓助 6.5 [新青年 昭和12年3月]鉱山事故から視力を失って帰還した男にまつわる陰謀。少し出来すぎの感あり。
失楽園殺人事件 小栗虫太郎 6.0 [週刊朝日 昭和9年3月]陰惨な失楽園を舞台に、相変わらずよくわからないトリック。小栗には、たまに読みたくなる不思議な魅力がある。
殺人リレー 夢野久作 4.0 [新青年 昭和9年10月]何のヒネリもない、つまらない話。

この本の初刊は1976年7月ですから、同じ中島河太郎編集で先に出た立風書房「新青年傑作選」(1970年)はもちろんのこと、ほぼ同時期にこれまた中島編集の角川文庫「新青年傑作選集」(1977年)との重複をも出来る限り避けたセレクションになっているようです。また、「新青年」以外で発表された作品を積極的に選ぼうという意図があるようにも思われます。
趣旨はわかりますが、作品レベルという視点から見ると、先のアンソロジーを上回るものではなく、「落ち穂拾いアンソロジー」であると言われても致し方ないですね。


徳間文庫 1984年9月15日 初刷 375ページ 480円