探偵小説名作全集11 ( 短篇集 )

『名作全集』の名に偽りなしのアンソロジー。


題名 作者 評点 コメント
赤いペンキを買った女 葛山二郎 6.0 [昭和4年12月]新青年傑作選1 推理小説編で読了済。
氷の涯 夢野久作 5.5 [新青年 昭和8年2月]冗長な展開にうんざり。代表作とされているが面白くない。
司馬家崩壊 水谷準 6.5 [新青年 昭和10年4月]13の暗号で読了済。
三狂人 大阪圭吉 9.0 [昭和11年7月]新青年傑作選1 推理小説編で読了済。
海豹島 久生十蘭 7.5 [大陸 昭和14年2月]日本ミステリーベスト集成1 戦前編で読了済。
天狗 大坪砂男 6.0 [宝石 昭和23年8月]現代の推理小説(第1巻) 本格派の系譜で読了済。
噴火口上の殺人 岡田鯱彦 8.5 [ロック別冊 昭和24年8月]現代の推理小説(第1巻) 本格派の系譜で読了済。
死者の呼び声 山田風太郎 5.0 [面白倶楽部 昭和27年8月]日本ミステリーベスト集成2 戦後篇で読了済。
誤報 島田一男 6.0 探偵小説年鑑で読了済。
赤い密室 中川透 7.5 [探偵実話 二十九年九月]日本代表ミステリー選集07 殺人者にバラの花束で読了済。

探偵小説名作全集」は昭和31年に河出書房より発刊された全11巻の全集。上記の短編集は最終巻の11巻で、その他のラインアップは下記となっています。

VOL 著者 作品名 月報 発行
01 江戸川乱歩集 二銭銅貨、ニ廃人
D坂の殺人事件、心理試験
屋根裏の散歩者、湖畔亭事件
陰獣、柘榴、月と手袋
月報4
回想・江戸川乱歩(平野謙)
探偵趣味(今官一)
少年と探偵小説(有馬頼義)
江戸川乱歩・略歴、代表作(中島河太郎)
江戸川乱歩・主要文献目録(中島河太郎)
昭和31年7月20日初版
312ページ
240円
02 小酒井不木・甲賀三郎集 疑問の黒枠
姿なき怪盗
月報8
探偵小説リアリズム説(安部公房)
探偵小説の周辺(大久保康雄)
探偵小説についての回想(浅見淵)
小酒井・甲賀主要文献目録(中島河太郎)
昭和31年9月30日初版
334ページ
240円
03 大下宇陀児集 鉄の舌
石の下の記録
月報5
探偵小説とスターリン批判(花田清輝)
小説らしい探偵小説(田中西二郎)
自分の性格を裏返した興味(曽野綾子)
大下宇陀児・主要文献目録(中島河太郎)
昭和31年8月15日初版
307ページ
240円
04 横溝正史集 蝶々殺人事件
本陣殺人事件
車井戸は何故軋る
月報1
横溝正史私見(大井広介)
闇のなかの甘美な推理(埴谷雄高)
僕のベストテン(福永武彦)
横溝正史・主要文献目録(中島河太郎)
昭和31年5月30日初版
298ページ
240円
05 角田喜久雄集 高木家の惨劇
奇蹟のボレロ
霊魂の足
月報2
探偵小説(大岡昇平)
探偵小説は文学か?(中村真一郎)
明治の探偵小説(瀬沼茂樹)
角田喜久雄・主要文献目録(中島河太郎)
昭和31年6月20日初版
254ページ
240円
06 浜尾四郎集 殺人鬼 月報9
庶民の素人探偵さんを(椎名麟三)
凡庸な探偵(三浦朱門)
本格長編もの(日夏耿之介)
浜尾四郎・主要文献目録(中島河太郎)
昭和31年10月13日初版
266ページ
240円
07 小栗虫太郎集 黒死館殺人事件
完全犯罪
月報11
小栗虫太郎(木々高太郎)
基本的なこと(堀田善衛)
新作品への期待(荒正人)
小栗虫太郎・主要文献目録(中島河太郎)
昭和31年12月1日初版
292ページ
240円
08 木々高太郎集 人生の阿呆
折蘆
就眠儀式
網膜脈視症
月報7
私の探偵小説観(小島信夫)
ゴロオ・その他(小沼丹)
読者への挑戦(長谷川四郎)
木々高太郎・主要文献目録(中島河太郎)
昭和31年9月15日初版
290ページ
240円
09 坂口安吾・蒼井雄集 不連続殺人事件
船富家の惨劇
月報8
知的パズルと探偵小説(荒正人)
読書的感想(松本清張)
坂口・蒼井主要文献目録(中島河太郎)
昭和31年8月31日初版
345ページ
240円
10 高木彬光集 刺青殺人事件
能面殺人事件
月報3
探偵小説の楽しみ(戸板康二)
高木さんにお願い(遠藤周作)
探偵小説の背景(三木鶏郎)
高木彬光・主要文献目録(中島河太郎)
昭和31年7月10日初版
329ページ
240円

この「探偵小説名作全集」について、江戸川乱歩は「探偵小説四十年」で

この全集は主として荒正人氏に相談して編集されたもので、本格論者荒氏の好みがよく現われている。探偵小説らしい探偵小説ばかりが集まっているところに特徴がある。

記述していますが、たしかに本格好きには良いセレクションと言えるでしょう。

 また、昭和31年の出版ということもあって、戦前の長編が収録されているのもこの全集の特徴となっており、第2巻に小酒井不木「疑問の黒枠」、甲賀三郎「姿なき怪盗」、第3巻に大下宇陀児の「鉄の舌」、「石の下の記録」といった長編が収録されているのが目を引きます。時代を感じるといえば、この第11巻「短篇集」に収められた「赤い密室」の作家名が中川透となっていました。
 いずれにしても、その翌年の昭和32年から松本清張などの登場によって「推理小説」ブームが巻き起こるわけですから、この全集はまさしく「最後の探偵小説全集」と言えるでしょう。

 さて、この全集は全11巻となっていますが、実際には最終12巻目には、一般からの作品を募集していたようで、月報には下記のような記事が残っていました。

書き下ろし長編一般募集  
① 枚数 三百枚以上五百枚以内  
② 締切 昭和31年9月末日  
③ 投稿者の資格 一切なし  
④ 審査員 江戸川乱歩 大下宇陀児 木々高太郎 荒正人  
⑤ 当選謝礼は印税を持ってする  
⑥ 当選作は一篇乃至二篇(当選作なき場合は刊行せず)  

この顛末についても、乱歩の「探偵小説四十年」で触れられています。

この全集には十二冊目に「別巻」書下し長篇一般募集という一巻が予定され、その選も終っていたのだが、ちょうどそのとき河出書房は財政困難に陥り、事業を中止したので、折角の入選作も陽の目を見ないで終った。選者は私と大下、木々両君のほかに荒正人氏が加わっていて、大いに議論をして真剣に選出したものである。そのときの一席が仁木悦子さんの「猫は知っていた」二席が多岐川恭君の「氷柱」であった。二つとも埋もれてしまうのは惜しいと思ったので、翌三十二年、江戸川賞が長篇募集に改まったのを幸、旧河出書房の諒解を得て仁木さんの作を投稿されるよう勧め、これが江戸川賞に入選したのである。二席の多岐川君の「氷柱」も、河出書房新社が復活して間もなく、同社から単行本として出版せられ、好評を博し、ついで多岐川君は江戸川賞をとり、直木賞をとったのである。


河出書房 昭和31年7月10日初版 310ページ 240円