探偵小説年鑑(1958年版) ( 探偵作家クラブ編 )
ブーム到来の年。さすがに作品レベルは高いが、既読ばかりでした。
題名 | 作者 | 評点 | コメント |
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五つの時計 | 鮎川哲也 | 6.5 | [宝石 昭和32年8月]死者は語らず 宝石傑作集1・本格推理編で読了済。 |
安房国住広正 | 大河内常平 | 7.5 | [宝石 三十二年十二月]日本代表ミステリー選集09 犯罪特製メニューで読了済。 |
山は殺さず | 大下宇陀児 | 4.0 | ストーリーも人物像も古臭すぎてどうしようもない。 |
霧悪魔 | 香山滋 | 4.0 | これも陳腐な話でコメントする気になれない。 |
異安心 | 木々高太郎 | 2.0 | 長々とつまらん話を、一体何を書きたいのだろうか。途中のカナ文は読みづらいし、読み通すのは苦痛でしかない。 |
脱獄を了えて | 楠田匡介 | 6.5 | [宝石 昭和32年11月]現代の推理小説(第2巻) 本格派の系譜で読了済。 |
作並 | 島田一男 | 7.5 | [宝石 三十二年十二月]日本代表ミステリー選集10 殺人者が追ってくるで読了済。 |
ものの影 | 城昌幸 | 4.0 | 何のオチのないSFショートショート。 |
白魔の歌 | 高木彬光 | 6.5 | かつての名警部一家を襲う白魔という設定だが、趣向は途中でわかってしまう。 |
笛吹けば人が死ぬ | 角田喜久雄 | 7.0 | 不思議な少女が翻弄する殺人事件。何回かの返しが面白い。 |
粘土の犬 | 仁木悦子 | 5.0 | [宝石 三十二年十一月]日本代表ミステリー選集04 犯罪ショーへの招待で読了済。 |
爆発 | 日影丈吉 | 5.0 | 浮気発覚を恐れる男だったが、妻に魔の手が迫っていることを知る..。途中で検討がついてしまう。 |
地方紙を買う女 | 松本清張 | 6.0 | テーマにインパクトはあるが、展開は予想通り。 |
不死鳥 | 山田風太郎 | 6.0 | 老教授の若い妻と高校生、三人の手記から事件を浮かび上がらせる手法は面白いが、ラストが今ひとつ。 |
獅子 | 山村正夫 | 8.5 | [宝石 昭和32年11月]現代の推理小説(第2巻) 本格派の系譜で読了済。 |
支那扇の女 | 横溝正史 | 6.5 | 夢遊病の夫人は自らが毒殺者の生まれ変わりと信じているようだったが。後半は処理すぎ。もう少し書き込めばよかったのに。 |
吸血鬼考 | 渡辺啓助 | 5.0 | [宝石 昭和32年7月]死者は語らず 宝石傑作集1・本格推理編で読了済。 |
1957(昭和32)年は、「探偵小説躍進の年、探偵小説から推理小説への転換の年」と位置づけられるでしょう。その原動力は、言うまでもなく松本清張の登場でしょうが、それ以外にも色々な要素があるように思われます。
そのあたりについて、木々高太郎は序文で下記のように記述しています。
この集は一九五七年度の集成であるが、この年の後期あたりから、探偵小説の第三のブームがおこりはじめ、今この序文をしたためている時期には、一層もりあがりつつあるのを感じている。
第一のブームというのは、勿論戦後のことで、探偵作家クラブが江戸川乱歩の主唱で結成せられて新人出現を奨励した時に現われた、いわば「新人輩出時代」である。
例えば、香山滋、島田一男、高木彬光、山田風太郎、その他ぞくぞく出て来た時である。
第二のブームは、それからはるかに後期で、一九五〇年頃より、「飜訳探偵小説時代」ともいう可きか、これは今に至る迄ずっとつづいているといってよい。新旧、あらゆる欧米探偵小説が訳されつつあるし、而も、昔のように抄訳ではなく、凡べて全訳である。
第三のブームは何か。それは今や女性作家の出現ではないかと予想されるが、或いは純文学家の探偵小説執筆時代という形かも知れない。一つは江戸川乱歩賞の第三回受賞者として仁木悦子の出現からその動きがあり、第二には松本清張、有馬頼義、菊村到、それに加田伶太郎 如き、少しも軽蔑しないで探偵小説をかきはじめていることでもあろう。
確かに、この巻を見るとその後各種傑作集に採られた作品が7編もあり、量だけではなく質も伴った真のブームであったことが伺われます。
さて、年鑑を読むに当たっては、既読を避け未読のものを読むことになるわけです。年鑑の作品は作者のあいうえお順に並んでいるため、ここ数年、「大下宇陀児→香山滋→木々高太郎」の順番で読むことが多いのですが、これがつまらない。前回にも愚痴めいたことを書いた記憶がありますが、もはや過去の作家、本来ならとても年鑑に取り上げるレベルではないので、ウンザリさせられるわけです。しかも、今年は先にも述べたように既読作品のレベルが高いので、その感を強くしました。
附録
下記が掲載されています。
- 第三探偵小説総目録 中島河太郎
- 昭和三十二年度作品目録 中島河太郎
- 探偵小説界展望 田中潤司
- 探偵作家住所録
宝石社 昭和三十三年六月十五日印刷 昭和三十三年六月二十日発行
定価 三百七十円 504ページ