探偵小説年鑑(1959年版) ( 探偵作家クラブ編 )
探偵小説ブームまっただ中だけに、なかなかの作品揃い。面白く読めました。
題名 | 作者 | 評点 | コメント |
---|---|---|---|
白い密室 | 鮎川哲也 | 7.5 | 名作密室シリーズ。よくあるトリックなのだが、偶然の雪を絡めてうまくまとめている。 |
バラ園の共犯者 | 有馬頼義 | 4.0 | [昭和33年9月別冊文藝春秋]現代の推理小説(第4巻) 社会派の展開で読了済。 |
売春巷談 | 大下宇陀児 | 6.0 | ここまで時代が違うと面白く読める。 |
犬と剃刀 | 香山滋 | 5.0 | 雰囲気は悪くないが、そこまで。 |
細い眼の孫娘 | 木々高太郎 | 5.0 | 少女の不気味さを書きたいのだろうが、今から見ると無邪気なものだ。 |
沼の中の家 | 楠田匡介 | 7.0 | 脱獄計画の裏をかく設定が面白い。密室物より数段上手い。 |
淋しい草原に | 高城高 | 7.0 | [昭和30年6月宝石]現代の推理小説(第4巻) 社会派の展開で読了済。 |
泥まみれ | 島田一男 | 7.5 | [宝石 昭和33年3月]死者は語らず 宝石傑作集1・本格推理編で読了済。 |
ママゴト | 城昌幸 | 6.5 | 掌編だが、妙に余韻が残る。題名が良い。 |
火車立ちぬ | 高木彬光 | 5.5 | 登場人物の行動が必然性に乏しい。謎そのものも面白くない。 |
ある脅迫 | 多岐川恭 | 7.5 | [宝石 三十二年二月]日本代表ミステリー選集01 口笛ふいて殺人をで読了済。 |
崖上の家 | 角田喜久雄 | 7.0 | 動機のセコさが怖い。 |
かあちゃんは犯人じゃない | 仁木悦子 | 7.5 | [宝石 昭和33年2月]現代の推理小説(第2巻) 本格派の系譜で読了済。 |
捩れた輪 | 日影丈吉 | 6.0 | 面白くなりそうな題材なのに、尻すぼみ。 |
巻頭句の女 | 松本清張 | 7.5 | やはり佳作である。この年鑑を読むと清張がなぜ受けたかがわかる。 |
怪異投込寺 | 山田風太郎 | 8.5 | [昭和33年1月]宝石推理小説傑作選2で読了済。 |
悪魔の降誕祭 | 横溝正史 | 7.5 | さすが横溝、安定の出来である。 |
寝衣 | 渡辺啓助 | 6.5 | 題材は面白いが、今ひとつ必然性にかける。表現の古さは如何ともしがたし。 |
1957(昭和32)年から始まった探偵小説ブームは、その翌年である1958(昭和33)年にピークを迎えたと言って良いでしょう。探偵小説年鑑の作品レベルにも反映されていて、今年度も面白い作品が揃っています。
さて、今年の年鑑では、久しぶりに「日本探偵作家クラブ名誉会長」の江戸川乱歩が序文を寄せています。
今年の年鑑には私にも序文を書けということであった。年鑑の序文は、その時の日本は作家クラブ会長がく慣わしになっているので、木々現会長の序文があるから、二つも序文は要らないではないかといったところが、賑かしに私にも書けというのである。
と経緯から始め、以下探偵小説ブームの背景を的確にまとめています。
私が最後に序文を書いた一九五二年版と、六年後のこの集とを比べると、作家の顔ぶれが相当変っていることを先ず感じる。五二年版に作品が出ていて本集に出ていない人々、大坪砂男、柴田錬三郎、椿八郎、永瀬三吾、氷川瓏、水谷準、宮野叢子の七人、十六篇中の七篇である。
本集に作品が出ていて五二年版に出ていない人々、鮎川哲也、有馬頼義、楠田匡介、高城高、 多岐川恭、角田喜久雄、仁木悦子、日影丈吉、松本清張の九人。十八篇中の半数九篇である。
やはり時の推移がまざまざと感じられる。この数年、日影丈吉、鮎川哲也両君が大きくクローズアップされてきたこと、ベストセラー作家仁木悦子さんの登場、文壇作家では松本、有馬両氏の大人気、探偵作家では木々君についで二人目の直木賞受賞者多岐川恭君、新人高城高君の進出、中堅楠田匡介君の脱獄ものでの活躍、これらはみな近年の探偵小説ブームを作り、またブームに乗って活発に動いた人々である。
五二年版の私の序文には左の一節がある。
「昭和二十五年後半期からはじまった探偵小説界の不振は二十六、二十七年度とも、大なる変化なくつづいてきた。個々の作家は従来通り仕事をしているのだけれど、ずばぬけた新人が現われるとか、作家の人を驚かす傑作が発表されるとかいうことがなく、全体としての沈滞感は蔽うべくもなかった。一方また、二十五年度まではあれほど盛んであった飜訳ものの出版も(ブラック選書、雄鶏ミステリなどを指す。盛んといっても、今の早川書房、創元社の叢書に比べたら問題にならない。それさえ)二十六年に入ってグッと下火になり、二十七年に至っても復活の模 様がなかった。云々」
というのである。ここ二三年来の日本探偵小說はじまって以来の大ブームに比べて、まことに感慨の深いものがある。私は探偵小説盛衰曲線の一つの谷底でこの年鑑序文を中止し、今、その一つの大きな山の頂上で、久しぶりの序文を書いたわけである。
長々と引用してしまいましたが、さすが乱歩、見事な解説ですね。木々高太郎のお座なりな序文に比べると、レベルが違います。
附録
下記が掲載されています。
- 探偵小説界展望 中島河太郎
- 日本探偵作家クラブ記録 大河内常平
- 昭和三十三年度作品目録 中島河太郎
- 探偵作家住所録
宝石社 昭和三十四年六月二十五日印刷 昭和三十四年六月三十日発行
定価 三百八十円 530ページ