日本ミステリーベスト集成3 山岳編 ( 中島河太郎編 )

山岳ミステリで一冊のアンソロジーを編むのは、無理があったようです。


題名 作者 評点 コメント
裂けた風雪 森村誠一 6.5 [推理界 昭和45年3月]山を舞台にしたアリバイ物。意外性はないが、風景描写がうまい。
求菩提行 石沢英太郎 7.0 [推理増刊 昭和47年9月]謎の女性に頼まれて山行を同行した作家は背景を調査する。ミステリ的には大したことはないが、読ませる。
たった一人の鉱山 草野唯雄 7.5 [推理 昭和45年12月]鉱山の越冬管理を任された男のもとに押し入る男たち。サスペンスフルな展開が良い。
アルプスに死す 加藤薫 7.0 [オール讀物 昭和44年9月]山の描写に迫力があり読ませる。ミステリ要素は希薄だが、動機は意表を突かれた。
密林の迷路 瓜生卓造 5.0 [オール讀物 昭和42年9月]ミステリ的要素が何もない作品。このセレクションは間違いでしょう。
噴火口上の殺人 岡田鯱彦 8.5 [ロック別冊 昭和24年8月]現代の推理小説(第1巻) 本格派の系譜で読了済。
夫婦岩峠 笹沢左保 4.0 [小説現代 昭和42年8月]妻殺しの男を高級ホテルで見つけた主人公。取ってつけたような結末にはがっくり。
消えたシュプール 新田次郎 5.0 [小説現代 昭和38年6月]25年前の父の死を追う男。予想通りの展開で何の意外性もなく味気ない。

「日本ミステリーベスト集成1 戦前編」「日本ミステリーベスト集成2 戦後篇(中島河太郎編)」と中島河太郎編集としては今一つ評価できない残念な内容でしたが、第3巻は「山岳物」をテーマにしたアンソロジー。さてどうなりますか。

前半の作品はなかなかのレベルで、石沢英太郎「求菩提行」、草野唯雄「たった一人の鉱山」、加藤薫「アルプスに死す」と佳作のあとに、マイベスト10に入る岡田鯱彦「噴火口上の殺人」と続けば文句の言いようがありません。
しかし、その後は失速。結局、山岳物は専門知識を必要とする分野ですし、ましてやミステリーとなるとその対象作品は極めて限定されてしまうのでしょう。例えば、笹沢左保の作品など、山に関係する部分といえば山中で心中死体が見つかっただけのことにすぎません。また、山岳作品を多く書いた瓜生卓造(この作家は知らなかった)、新田次郎のセレクションにも限界を感じます。前者はミステリ味が皆無であり、後者もあまり出来の良いものではありませんでした。それでも、全体を通じてみれば、楽しく読めるアンソロジーと言えるでしょう。


徳間文庫 1984年12月15日 初刷 378ページ 480円