死が二人を別つまで ( 鮎川哲也 )

表題作だけ読めば十分。そんな一巻でした。


題名 作者 評点 コメント
汚点 鮎川哲也 5.0 [推理ストーリー 昭和39年3月]愛子の件はこの話だったのか。ちょっとした思いつきにすぎない。
蹉跌 鮎川哲也 4.0 [小説現代 昭和39年5月]ラストのオチがよくわからない。
霧笛 鮎川哲也 6.5 [推理ストーリー 昭和39年9月]船内の連続殺人。この長さでは結末までが駆け足であっけない。
鮎川哲也 5.0 [週刊現代 昭和39年10月25日] 皮肉な結末だが、倒叙物は面白くない。
Nホテル・六○六号室 鮎川哲也 6.0 [漫画読本 昭和39年12月]パロディめいた設定だが、まともな推理パズルになっている。
伝説の漁村・雲見奇談 鮎川哲也 6.5 [旅 昭和39年12月]旅行雑誌に書いた小品だが、うまくまとまっている。
プラスチックの塔 鮎川哲也 6.0 [小説現代 昭和40年9月]本を巡る展開が面白いが、殺人の動機には弱すぎる。
死が二人を別つまで 鮎川哲也 8.0 [推理ストーリー 昭和40年2月]これは良く出来た秀作。意外な結末に感心。
晴のち雨天 鮎川哲也 4.0 [小説現代 昭和40年9月]倒叙物。つまらないアリバイ工作が崩される展開にウンザリ。
赤い靴下 鮎川哲也 4.0 [推理ストーリー 昭和41年2月]これまた倒叙物。つまらない殺害工作が崩される展開にウンザリ。

角川文庫の「鮎川哲也名作選」は、昭和38年以降の作品を収録しているのですが、この時期の鮎川の短編では、犯人と犯行手段が最初から描かれている、いわゆる「倒叙物」が増えています。
実は、個人的にこの形式が大嫌いなのです。短編ミステリの面白さは、ちょっとしたヒネリを含めた意外性にあると思うのですが、「倒叙物」という形式は、どんな素晴らしいトリックが考案されていようと、最初からその面白さを大半放棄しているからです。

鮎川の長編では、序盤から鬼貫や丹那の捜査が描かれ、それによって事件の背景が明らかになっていき、中盤あたりでちょっと意外な犯人が特定されるというプロセスをとります。この展開を踏んだ上で、終盤のアリバイ崩しへと移行していくわけです。「黒い白鳥」などがその良い例ですね。ところが、短編では中盤までのプロセスが全てカットされ、トリックだけの味気ない展開になってしまうのです。

この短編集では、その「倒叙物」が半数を占めており、さらに今後もその傾向が続きそうです。「鮎川哲也名作選」全7冊を読みきるのは、難しいかもしれません。

角川文庫 昭和五十三年十月二十五日初版発行 昭和五十六年八月三十日四版発行 344ページ 380円