現代の推理小説(第1巻) 本格派の系譜(I) ( 編集委員 松本清張 平野謙 中島河太郎 )

レベルの高い作品が揃っている。半世紀前の「現代」だが古びていない。


題名 作者 評点 コメント
天狗 大坪砂男 6.0 [宝石 昭和23年8月]何回読んでも、さほどの名作とは思えない。それでも文章のリズムはさすがだ。
噴火口上の殺人 岡田鯱彦 8.5 [ロック別冊 昭和24年8月]筋書きは予想できても、話の展開が圧倒的に面白い。作品全体の雰囲気もよい。
かむなぎうた 日影丈吉 7.5 [別冊宝石 昭和24年12月]都会から田舎にやって来た少年の視点で語られる物語には迫力がある。
鼠の贄 高木彬光 7.5 [新青年 昭和25年5月]筋書きは予想できるが、よく出来た設定で読ませる。
ある決闘 水谷準 6.5 [改造 昭和26年4月]中世を思わせる設定は面白いが、結末に説得力がない。
横溝正史 7.0 [オール読物 昭和26年7月]三年前の失踪事件現場に磯川警部は金田一耕助を伴い再訪。謎そのものはいさささか陳腐だが、楽しく読めます。
赤い靴 山田風太郎 8.5 [面白倶楽部 昭和28年8月]妖異金瓶梅の第一編。舞台設定の面白さと、この時代ならではの殺人動機が効いている。
蔵を開く 香住春吾 8.0 [宝石 昭和29年7月]蔵の古道具を勝手に売り払った老夫婦の会話が傑作。さすが放送作家である。
心霊殺人事件 坂口安吾 7.0 [別冊小説新潮 昭和29年10月]日本代表ミステリー選集03 殺しこそわが人生で読了。
文殊の罠 鷲尾三郎 7.5 [宝石 昭和30年1月]日本代表ミステリー選集03 殺しこそわが人生で読了。
月と手袋 江戸川乱歩 5.0 [オール読物 昭和30年4月]乱歩らしさが微塵も感じれれないつまらない倒叙物。
十一郎会事件 梅崎春生 4.0 [小説新潮 昭和30年9月]これのどこが面白いんだ。なんで選ばれたのか不思議だ。
クレイ少佐の死 大河内常平 7.5 [宝石 昭和30年12月]PXで働く通訳の目を通じて語られる少佐のキャラクタが印象に残る力作。
  • 「現代の推理小説(全4巻)」は、立風書房から「新青年傑作選」に続いて、1970(昭和45)年から1971(昭和46)年にかけて出版されたアンソロジーです。「現代」といっても、もはや半世紀も前の出版ですが、「新青年傑作選」がほとんど戦前の作品であったのに対し、こちらは戦後の短篇をターゲットにしていることもあって、その対比から「現代の推理小説」としたのでしょう。
  • 戦後の短篇ミステリを「本格派」、「ロマン派」、「社会派」に分類し、全4巻に構成、最初の2巻を「本格派」にあてており、第1巻は、昭和23年〜30年までの作品を収録しています。
  • このアンソロジーのセレクションは、今でも最高のレベルと考えています。戦後の短篇は、「日本代表ミステリー選集」から読むつもりだったのですが、内容がかぶるところもありますし、また、昭和40年代の中間小説のつまらなさにいささか辟易としたこともあって、まずは「現代の推理小説」から読んでいきたいと思います。
  • 個人的に、このアンソロジーは非常に思い出深いものがあります。たぶん、全4巻すべてを新刊で購入したと思います。50年ぶりの再読ですが、その評価はどうなるでしょう。楽しみです。

1970年11月10日初版印刷 1970年11月15日初版発行 359ページ 780円