紅鱒館の惨劇 幻の名探偵小説集 ( 鮎川哲也編 )

「幻の作品」に名作なし。それでも大阪圭吉や天城一で満足しましょう。


題名 作者 評点 コメント
寒の夜晴れ 大阪圭吉 6.5 [新青年 昭和11年12月]寒い冬の描写は悪くないが、ミステリとしては平凡。
ユダの窓はどれだ 千葉淳平 4.0 [別冊宝石 昭和38年1月]いかにも「宝石新人賞」らしい素人くさい小説。
紅鱒館の惨劇 岡村雄輔 5.0 [別冊宝石 昭和24年5月]小栗虫太郎もどきの設定だが、犯行トリックを含めて中途半端で古臭い。
火山観測所殺人事件 水上幻一郎 4.0 [ロック 昭和23年9月]複雑な設定が整理されずに進むので、筋がうまく取れない。小説として稚拙。
豹助都へ行く 九鬼紫郎 4.0 [ぷろふいる 昭和22年4月]何の伏線もない解決を突然持ち出されては困ってしまう。
間貫子の死 香住春吾 6.5 [宝石 昭和30年10月]さすが放送作家。作中のギャグが楽しい。ただ犯人当てテキストとしては不満が残る。
ポツダム犯罪 天城一 7.0 [密室 昭和28年8月]チェスタトンを思わせる語り口と殺人トリックが面白い。
坪田宏 5.0 [宝石 昭和25年1月]つまらない密室トリックに何の意外性もない解決。
エロスの悲歌 千代有三 6.0 [別冊宝石 昭和27年7月]人物像がうまく描かれていないので、ラストの意外性が生かされていない。

 まだ残っていた鮎川哲也編集のアンソロジー。いまでも通用する出来なのは、大阪圭吉「寒の夜晴れ」、香住春吾「間貫子の死」、天城一「ポツダム犯罪」の三編でしょうか。
本書の出版は、1981(昭和56)年ですが、大阪圭吉の「とむらい機関車」が国書刊行会から出たのは1992年、天城一については「13の密室」でも少し触れたように、立教大学ミステリクラブの同人誌で紹介されていたに過ぎないという全く無名な作家でした。そういう意味で、本書による紹介は十分意味のあるものと評価できます。
香住春吾は、「現代の推理小説(第1巻) 本格派の系譜(I)」に採られた「蔵を開く」が代表作でしょう。それ以外にも、「カロリン海盆」なども面白い作品です。この人はラジオやテレビの放送作家が本業だったようで、さすがに会話が面白く現代でも色褪せていません。

 さて、表題作となっている岡村雄輔「紅鱒館の惨劇」は、小黒虫太郎を思わせる人物が登場する本格物ですが、小栗ほどのペダントリーや奇想天外さはなく、現代に通用する作品ではありません。ただ、この作品を初出である「別冊宝石」で読んだときには、結構感心した記憶が残っています。まあ、若い時にはこういうタイプに惹かれるものなのでしょう。ちなみに、この「別冊宝石」は「第三回新人募集」の応募作を収録したもので、先に言及した「カロリン海盆」と岡田鯱彦「妖鬼の呪言」が掲載されています。宝石の新人賞作品も昭和25年まではそれなりのレベルでしたね。


双葉社 昭和56年12月10日 初版発行 305ページ 750円