赤い密室 名探偵・星影龍三全集ーⅠ ( 鮎川哲也 )

若き日の思い出に浸るも、初読時の感動は味わえませんでした。


題名 作者 評点 コメント
呪縛再現 鮎川哲也 5.0 [密室 昭和28年10、12月]これは詰め込みすぎの失敗作。星影がへっぽこな点だけが面白い。
赤い密室 鮎川哲也 7.5 [探偵実話 昭和29年9月]日本代表ミステリー選集07 殺人者にバラの花束で読了済。
黄色い悪魔 鮎川哲也 6.5 [探偵実話 昭和30年9月]ちょっと拍子抜けだが、説得力はある。
消えた奇術師 鮎川哲也 6.0 [講談倶楽部 昭和31年11月]犯人の仕掛けるトリックは自分を犯人に特定してしまう。
妖塔記 鮎川哲也 6.0 [探偵倶楽部 昭和33年5月]小品として面白い。
道化師の檻 鮎川哲也 6.5 [宝石 昭和33年5月]よく考えられたプロットだが、こんな形で殺さないほうが発覚しなかったのでは。

 初めて鮎川哲也を読んだのは、東都書房の日本推理小説体系第13巻「鮎川哲也 日影丈吉 土屋隆夫集」だった記憶があります。ちなみにこの巻に収録されていたのは、鮎川哲也「黒いトランク」、日影丈吉「内部の真実」「かむなぎうた」、土屋隆夫「天国は遠すぎる」となかなか読み応えのあるラインアップでした。当時高校生だったと思うので、多分1972、3年あたりでしょう。
ただ、このとき読んだ「黒いトランク」は、地味な作品だなと思ったくらいで、それほど印象に残りませんでした。

 次に見つけたのが、宝石社から出ていた「現代推理作家シリーズ」の「鮎川哲也編」。「青い密室」と「リラ荘殺人事件」が収録されていたのですが、この2作品は非常に感心しました。この本、今はもう手元にありませんが、緑と白の表紙にビニール装、確か真鍋博の装丁だったと思います。やはり若いときに読んだ作品は記憶に残ることもあって、今でもお気に入りの作品です。

 上記2冊、いずれも古本屋で見つけたものでした。当時、鮎川哲也を新刊で入手できたのは、カッパノベルズ「鍵穴のない扉」、毎日新聞社から出ていた新作「風の証言」程度だったような気がします 現在は光文社文庫、創元推理文庫で長編から短編までほとんど入手できるようですから、良い時代になったものです。

 鮎川哲也が生んだ名探偵と言えば、アリバイ崩しの「鬼貫警部」でしょうが、先に述べた原体験もあって、個人的には「星影龍三」物に強い思い入れがあります。
その名探偵「星影龍三」物全作を2冊にまとめたのが、出版芸術社から平成八年に出版された「名探偵・星影龍三全集」全二巻。第一巻「赤い密室 名探偵・星影龍三全集ーⅠ」の目玉は、商業誌掲載の作品以外に、同人誌「密室」に発表され「りら荘殺人事件」の原型にもなった「呪縛再現」が収録されていることでした。
ただ、現状では「星影龍三」物の短編は光文社文庫にて「消えた奇術師」、「悪魔はここに」の2冊に収録されていますし、「呪縛再現」も「リラ荘事件」の後半に掲載されていますので、この本の存在感も薄れてしまったというところでしょうか。

 さて、その「呪縛再現」ですが、残念ながら出来の方は今ひとつ。星影龍三のみならず鬼貫警部まで出てくるという、びっくりするような構成なのですが、あまりに色々盛り込みすぎてまとまりが悪く、ゴタゴタした感じを拭えません。その当時「宝石」誌から干されていた鮎川ですが、その欲求不満マグマが爆発してしまったような感じがします。

その他の作品も改めて読み返してみると、さほどの出来と思えなかったのは残念でした。色々思い入れのある「星影龍三」物なのですが、まあ、そういうものなのかもしれません。第二巻に期待しましょう。


出版芸術社 平成八年八月二十日第一刷 平成八年九月十日第二刷 254ページ 1600円
解説は北村薫。装幀は京極夏彦 WITH FISCOが担当。
「作者より一言」で『京極さんがプロデザイナーでもあることは知っていましたが、こんなに早く装幀をお願いするチャンスがくるとは思ってもいませんでした。私にとっては長年の念願であった名探偵星影氏の作品集をステキな本に仕上げてくださった京極さんに、一言お礼を申し添えたいと思います。ありがとうございました。』とあります。