マイアミ沖殺人事件 ( デニス・ホイートリー )
趣向そのものが面白いのはもちろんだが、ちょっとしたひねりもあって楽しめる。
「捜査ファイル」物とは
本の帯にある文章が簡潔に概要を説明しています。さすが、プロはちがうなあ。
’
「あなたが探偵 捜査ファイルから犯人を推理する新趣向」とあります。
読者はフロリダ警察のシュワッブ警部補と同じ立場にいます。収録されている調書、写真、実物証拠等をよく読み、手にとり、細心の注意で見て、推理してください。
シュワッブ警部補の結論は、本の後ろの袋とじページにあります。あなたの結論を出してから、開いてください。
作者 デニス・ホイートリーについて
例によって、Wikipediaによれば、
Dennis Yeats Wheatley (8 January 1897 – 10 November 1977)は、英国作家。スリラーやオカルト物を量産。1930年から1960年の間、世界でも有数のベストセラー作家だった。
とのこと。日本では「黒魔団」が有名ですね。
そのホイートリーが、J.G.リンクスと組んで始めたのがこのシリーズ。1930年代にHutchinson社から、4冊出版されています。このシリーズ、英語では「The Crime Dossiers」というらしい。
” The Crime Dossiers of Dennis Wheatley and J G Links “ に、出版に至る経緯などが詳細に記述されています。
このサイトによれば、「The Crime Dossiers」という形式には、コスト面など、当初否定的な意見が多かったようですが、最終的にかなりの成功を収めた模様です。
ホイートリーは自叙伝にて、「120,000部を6ヶ月で売り切った」、「メアリー王妃がハッチャーズ書店にあった6冊すべてを、発売日に購入した」というエピソードを紹介しているとのことです。
シリーズ全4作の原題は、下記のとおりです。
- Murder Off Miami (1936)
- Who Killed Robert Prentice? (1937)
- The Malinsay Massacre (1938)
- Herewith the Clues (1939)
アメリカでモノマネ企画が登場
この評判を受け、アメリカでは、William Morrow社が、‘Murder Off Miami’ を ‘Crimefile Number 1 File on Bolitho Blane(1936)’ として出版。続けて、下記の作品を出したようです。
- Crimefile Number 2 File on Rufus Ray(1937) by Helen Reilly
- Crimefile Number 3 File on Fenton and Farr(1937) by Q. Patrick
- Crimefile Number 4 File on Claudia Cragge(1938) by Q. Patrick
日本では
このシリーズ4冊とも、中央公論社から翻訳出版されています。奥付によると、1979年の復刻版をベースにしているようですね。
- マイアミ沖殺人事件(1982)
- 誰がロバート・プレティスを殺したか(1983)
- マリンゼー島連続殺人事件(1983)
- 手掛りはここにあり(1983)
マイアミ沖殺人事件の概要は...
カールトン・ロックサベジは、商売敵でイギリスの石鹸業界を握るボライソ・ブレーンを豪華ヨット、ゴールデン・ガル号に招待し、商談の準備をしていた。
ところが、マイアミをでてすぐに、秘書のストダートがブレーンがいなくなったと言い出す。室内に遺書らしきものがあることから、ビジネスに限界を感じたブレーンが悲観し、自殺したものと考えられた。
しかし、室内に残された絨毯の上の2本の線、カーテンについた血痕などから他殺であることが判明。7時半から8時45分までの間に、死体は丸窓から海に投げ入れられたと推定される。
ケタリング刑事の捜査が始まる。彼は、乗客を尋問を進めていく。
まずは、ヨットのオーナーで、アメリカ石鹸業界を牛耳るカールトン・ロックサベジ。彼は、社交界の花である娘のフェンとともに、乗船していた。
最大の動機を持つのは、もちろんカールトン・ロックサベジである。ブレーンが亡くなれば、彼の会社を吸収できるからだ。
石鹸業界だけに、実現すれば ソープの帝王 と呼ばれるだろうな(笑)。
ウェルター夫人と、その娘夫妻、レジナルド・ジョスリンとパメラ。夫人はロックサベジの会社に投資しているが、財政状態は良くない。娘夫妻は夫人に依存。レジナルド・ジョスリンはウェルター夫人の相談役だが、評判は芳しくないという。
ポゾディーニ伯爵、かれはレジナルドの友人だが、どうも胡散臭い。
ビュード主教は、ブレーンの古い友人らしいが、過去に何かの不祥事を起こしており、その件でブレーンと因縁があるようだ。
林伊之助、かれは日本のフィクサーのような存在。石鹸利権(あるんか?)を得ようと画策している。ニコラス・ストダートは、身寄りがなく苦労した後、ボライソ・ブレーンの秘書となった。
ケタリング刑事は、カールトン・ロックサベジ以外の乗客にも、ブレーン殺害の動機があることを調べあげ、犯行時刻と考えられる午後7時45分から8時半までのアリバイに注目する。
ところが、皮肉なことに、全員に完璧なアリバイがあることが立証されてしまうのである。途方に暮れたケタリング刑事は、帯に印刷されているシュワッブ警部補に助力を求めるのであった。
ここまでで、問題編は終了。
解決編を開封してみて
実は、あまり多くを期待していなかったせいもあって、結末には少し驚きました。
解決編を読んだ後、今までの展開を振り返ってみると、「なるほど」と頷けるところが少なくないので、よく出来ていると思います。
プロットは少し単純ですので、熟考するタイプの方なら真相がわかったかも知れません。ただ、こういうすっきりした展開には好感が持てます。少なくとも、複雑すぎてよほどのことがないと解けないような謎解きよりは数段良いでしょう。
わたしは、あまり真剣に考えずに開封してしましました。もう少し時間をかけてみるべきでしたね。
本の構成
登場人物や室内の写真はもちろん、金髪と黒髪の絡みあった髪の毛、使用後のマッチまで、現物が添付されているのには、びっくりします。
購入したのは
この本は、2000年に蒲田の古書店にて1000円(定価2800円)で購入したものです。この程度の値段なら、読む価値は十分あります。現在は絶版ですが、流通量は少なくないので、入手はさほど難しくないでしょう。
袋とじの解答編未開封のものでしたが、今回開封しました。他の3冊も持っていますが、全て未開封のまま。誰も読まなかったのか、それとも見切り品として流れてしまったのかな。