中町信を読む ( その1 )

初期の5作品は、どれも意外性に満ちた秀作揃い。お薦めです。


中町信(1935-2009)が一般に注目されたのは、2000年以降に創元推理文庫から初期作品が復刊されてからでしょうが、それ以前から意外性に富んだストーリー展開は、一部のミステリファンから評価されていました。中町の長編第一作「新人賞殺人事件」が双葉社から出版されたのは1973年のこと。実に50年前になりますが、わたしはこの作品、発刊時に読んで非常に感心したおぼえがあります。

その後、中町の作品を手に取る機会はなかったのですが、創元社で復刊されたことを知ると昔の記憶が蘇り、その後の作品が気になり始めたわけです。時はすでに2008年になっておりました。そういえば、中町の作品は徳間文庫でかなり出版されていたような覚えがあります。しかし、もう新刊での入手はもうできないようなのですが..。


万歩書店で「中町本ハント」

こんな時に頼りになるのが、岡山の「万歩書店」。まあ、知る人ぞ知るという大型古書店です。なにせ店舗の大きさが尋常ではないのです。学校の体育館のような建物の中に、種々雑多な本が詰まっているという、まさに本好きのユートピアであり、一度入ってしまうと、最低でも1時間は出てこれない、そんな場所なのであります。
2008年当時は、本店以外に、倉敷店、東岡山店と大規模な店舗がありましたが、2023年現在は、北長瀬近くの本店のみ。古書店運営も難しい時代になってしまいましたね。なお、万歩書店の歴史については、ここを参照ください。万歩書店の思い出については別途書いてみたいと思います。

さて、この万歩書店ならば「中町本」もあるのではないか、と満を持して買い出しに出向いたわけです。その予想はピタリ的中、なんと一気に15タイトル入手したのでありました。冊数ではなくタイトルで書くのは、2冊ほどダブりがあったから..情けない(笑)。

もう15年も前になりますが、買い込んだ本もほとんど読み終わったので、これから数回に渡って短評をまとめておきたいと思います。


(1) 模倣の殺意(新人賞殺人事件) (1973)

久しぶりに意外感を味わった。,フランス推理小説のようなどんでん返し。今年の収穫の一つ。 (1973/12/21)

これは50年前の感想。真面目に読書日記をつけていた高校時代の話です。高校生がなんでこの本を買ったのかと言えば、たぶんHMMの書評(1973年3月)で瀬戸川猛資が褒めていたからだろうと思います。「フランス推理小説のようなどんでん返し」などと生意気な感想を書いていますが、フレッド・カサックの「殺人交叉点」あたりを想起していたのかもしれません。。今となってはよくわかりませんけど。

さて、50年前の感想だけでは不十分。再読が必要でしょう。とはいえ初刊本は手元にありません。しかたがないので、創元で復刊された「模倣の殺意」を探しに行くことにします。
第二次中町本ハント」と意気込み大阪の古本屋を回ってみると、なんと一軒目のブックオフでかんたんに発見。しかもこの本、棚に3冊も並んでいました。それどころか下の段にもう1冊見つけてしまったので、この店舗だけで4冊もあったわけです。近所の学校の指定図書にでもなっていたのか、「模倣の殺意」(笑)。

さて、50年ぶりの再読です。まあ、ちょろい高校生は騙せても、還暦過ぎのジーサンはそうはいかん。人生経験、読書経験が違うぞ..と言っていましたが、しっかり引っかかりました、はい。面白かったです。


創元推理文庫 2004年8月13日 初版 2013年4月5日 21版 327ページ 740円
21版というのはすごいなあ。 ここをみたら、なんと40万部も売れたらしい。
初刊は「新人賞殺人事件」双葉社。


(2) 「心の旅路」連続殺人事件 (1974)

ストーリ展開も巧さと犯人の意外性に感心。岡山へ行った甲斐あり。 (2008/04/10)

この作品も良くできていると思います。ストーリーに緊迫感があり、後半二転三転する展開とラストの意外性には感心しました。創元社が復刊対象にしなかったのはなぜでしょう。少なくとも「空白の殺意」よりは上だと思うのですが。


徳間文庫 1987年8月15日 初刷 315ページ 440円
初刊は弘済出版社から「殺された女」というタイトルで出ていたらしい。


(3) 女性編集者殺人事件 (1978)

前作よりは落ちるが、面白く読んだ。最後のアリバイ崩しが陳腐なのは欠点。 (2008/04/23)

前作から4年あいています。まだ中町信の認知度は低かったのでしょうね。


勁文社文庫 1989年8月15日 第1刷 247ページ 480円
初刊は日本文華社から「殺戮の証明」。記録を見ると、この本も購入したようなのですが、見つからず。


(4) 自動車教習所殺人事件 (1980)

これは視点が定まらない。アリバイ崩しでは中町の良さが出ない。 (2008/06/01)

少し長すぎてだれてしまう点もあって、あまり評価はできません。アリバイ崩しが嫌いなせいもあるでしょう。


徳間文庫 1988年2月15日 初刷 413ページ 540円
初刊は「自動車教習所殺人事件」トクマノベルズ。
創元推理文庫から「追憶の殺意(2013年8月)」というタイトルで復刊されています。


(5) 空白の殺意(1980)

なかなかの佳作である。 (2008/02/14)

われながらひどいコメントである。もう少し具体的に書けよ、と言いたい。
しかたがないので、読み直してみましたが、これあまり面白くありません。複数の殺人が連鎖していくのですが、犯人設定が安易なうえ動機にも説得力がない。
作者の中町信はあとがきで、『「自作の中で出来が良く、気に入っている作品は?」と問われることがあるが、私はためらわずに、というより他に該当作品がないために、この「高校野球殺人事件」を筆頭に上げている。』としていますが、いかがなものでしょう。これはセールストークなのかな。

創元推理文庫 2008年2月17日 初版 2013年4月5日 再版 312ページ 720円
初刊は「高校野球殺人事件」トクマノベルズ。

「中町信を読む(その2)」