現代推理小説体系 第15巻 ( 仁木悦子、新章文子、戸川昌子 )

江戸川乱歩賞受賞女流作家三人集。講談社の全集らしいセレクションですね。



猫は知っていた(仁木悦子)

 仁木雄太郎・悦子の兄妹が、箱崎医院に下宿することから物語は始まります。

そんなある日、院長の母が突然姿を消し、庭の防空壕の中で扼殺死体になって発見される。また、当日に平坂という入院患者が行方不明になっていることも判明し、彼が犯行後逃亡したのではないかと考えられた。
しかし、その後看護婦の一人が毒殺死体で発見されたことから、事件は新たな展開を見せる..。

 1957年度の第3回乱歩賞受賞作。この年度から長編小説募集が始まっているので、小説としては初回の受賞作です。
この作品、久しぶりに読んでみました。最初に読んだのは多分、高校時代。講談社から出た初刊のカバー欠本を70円で購入したことまで覚えています。
今回はそれ以来の再読なのですが、全く古さを感じず、むしろ新鮮ささえ覚えるのに驚きました。それは作者の明るさ、良い意味での無邪気さが表に現れたからなのでしょう。ただ、それゆえ犯人さえ善人に見えてしまい、その残忍な犯行や動機に必然性が欠けてしまったのは皮肉でした。


危険な関係(新章文子)

 いやあ、読み終わるのに苦労しました。ミステリ的要素に乏しいのはともかく、小説として全くつまらない。なんで、これが1959年「江戸川乱歩賞」なのだろう。候補作に笹沢左保の「招かれざる客」があったのに..。不思議です。


大いなる幻影(戸川昌子)

 女性専用アパートを舞台に、孤独な住民による複数の視点で物語が進みます。

 恩師からヴァイオリンを盗んだ過去を持つ音楽教師、室内をゴミ屋敷にして節約に励む女、誘拐事件の被害者女性を教え子に持つ元教師、など様々な秘密を持つ女性がここに暮らしていた。また、アパートには新興宗教が入り込んでおり、教祖と巫女がその布教に務めていたのである。
このような状況のなかで、元教師は誘拐された少年の死体が、とある女性の室内に埋められているのではないかと言う疑念にかられる。アパートのマスターキーを入手した彼女は、そこに踏み込んでいくのだが..。

 1962年の「江戸川乱歩賞」を佐賀潜の「華やかな死体」と同時受賞。現在ではよく見るタイプの作品ですが、当時は新鮮だったのでしょう。ただ、この年の候補作には天藤真「陽気な容疑者たち」と塔晶夫(中井英夫)「虚無への供物」があったので、この選考も色々言われていました。「虚無への供物」は途中までだったようなので仕方ないでしょうが、個人的に「陽気な容疑者たち」は受賞作より数段出来が良い気がします。


  • 巻末のエッセイは、仁木悦子「ある無責任な対話」。
    月報の犯人当て小説は、多岐川恭「引き汐」。解答編は第六回大谷羊太郎「豪雨と殺人」と第七回陳舜臣「ピポーの音」を掲載、夏樹静子がエッセイ「「霧の会」のこと」を書いています。

講談社 昭和47年10月8日 第1刷発行 414ページ 850円