Marked Man ( Harry Carmichael )
Quinnが当事者として巻き込まれる序盤は派手だが、中盤からの停滞が残念。
作者について
Harry Carmichael(1908 - 1979)はイギリスの作家。
WIKIPEDIAによると、本名は”Leopold Horace Ognall”で、モントリオールの生まれ。ジャーナリストから作家に転身。”Hartley Howard”名義の作品を含めると、生涯に90冊以上の作品を残した多作家とのこと。
Harry Carmichael名義の作品では、保険調査員John Piperと新聞記者Quinnのコンビが、メインキャラクタとなります。
Carmichaelの作品について
彼の作品では、ほとんどの場合QuinnやPiperの周りで起きた日常的な事件が発端になります。話の展開は、彼らの調査の中で浮かび上がった人物とのやり取りと、その捜査過程でちょっと気になった点、感じた違和感など、いくつかのポイントを分析していくプロセスが中心となります。登場人物を少数に絞り、謎は小粒でも「ちょっとしたヒネリを効かす」、このあたりがCarmichaelの魅力です。そのラストが決まるかどうかが作品の評価に直結すると言ってよいでしょう。
また、作中PipperやQuinnの胸中の考えが、「Why does she assume that it must have been a man ? Is it because she knew Dorothy Mason’s reputation…」のようにイタリック体で強調されるのも特徴の一つです。
日本の作家でいえば、笹沢左保が1970年以降に書いていた本格物に近い感じがします。「求婚の密室」や「他殺岬」などの作品ですね。すごい傑作はありませんが、読んで失望することの少ない作家でしょう。
これまでに読了した作品
Carmichaelは、原書を読んでいた2000年頃に、なんやかんやで20冊以上読んでいました。
Title | Publisher | Point | Comment | Date |
---|---|---|---|---|
The Quiet Woman | Saturday Review Press | 7.0 | 意外な犯人はそれなりに見当がつくが、小品ながら楽しい。 | 2000/03/21 |
The Motive | Detective Book Club 3 in 1 | 6.5 | 今回は残念ながらスケールが小さい。後半は良かったのだが。 | 2000/05/26 |
Most Deadly Hate | Saturday Review Press | 6.5 | ラストの意外性は予想できる。展開がもう少し速ければ効果的だったのでは。 | 2000/08/08 |
False Evidence | Dutton | 7.5 | 最後まで読ませる。犯人の設定とラストの展開には感心した。 | 2000/10/16 |
Remote Control | McCall | 7.0 | ラストはある程度予測がつくが、職人芸である。 | 2001/01/11 |
Death Leaves a Diary | Panther Books | 5.0 | つまらない。後期の作品にある意外性がまるでない。 | 2001/05/31 |
Alibi | Macmilan | 7.0 | よく考えられた作品。ラストを軽く流すところも良い。酔払って読んだのは失敗。 | 2001/07/17 |
Flashback | Collins Crime Club | 6.5 | もう少し後半にひねりがあれば傑作だったのだが。後期の作品には及ばない。 | 2001/09/27 |
Deadly Nightcap | Linford | 5.0 | 結末が曖昧で何を書きたかったのかがわからない。後期に比べると大分落ちる。 | 2002/02/19 |
Murder By Proxy | Ulverscroft | 7.0 | 最後まで読ませるが、ラストの展開が今一つ盛り上がらない。 | 2002/04/17 |
Of Unsound Mind | Double Day | 6.0 | 最後は腰砕け。この犯人設定はないでしょう。そこまでは読ませるのだが。 | 2002/08/07 |
School for Murder | Collins Crime Club | 6.0 | 犯人の設定も面白いのだが、展開がこなれていない。 | 2002/11/12 |
Death Trap | McCall | 6.0 | 今回は展開が予想通りで意外性もない。凡作でしょう。 | 2002/12/27 |
Suicide Clause | Ulverscroft Large Print | 6.5 | 中位の出来。犯人の設定は面白いが、プロットに一貫性がない。 | 2003/01/21 |
A Question of Time | Collins Crime Club | 5.0 | 良くある展開でサスペンスもない。犯人も予想できる。凡作である。 | 2003/09/05 |
The Dead of the Night | Fontana Books | 7.0 | 犯人の設定が面白い。中盤がもう少しサスペンスフルなら傑作だったのに。 | 2003/10/29 |
Vendetta | Macmillan | 7.5 | 最後まで楽しく読めた。犯人は意外ではないが、納得できる構成である。 | 2004/03/10 |
Safe Secret | Collins | 6.0 | この作家にしては平凡な出来。ラストの盛り上がりに乏しい。 | 2004/05/18 |
Candles for the Dead | Saturday Review Press | 5.5 | 話も盛り上がらないし、結末も予想がつく。前半は悪くないだけに、腰砕け。 | 2005/02/08 |
Post Moterm | 5.0 | この作家にしては展開も切れがなく退屈。謎も単純で意外性もない。 | 2006/02/21 | |
Naked to the Grave | Saturday Review Press | 5.0 | 謎がつまらないし、ストーリー展開も陳腐な失敗作。 | 2006/11/08 |
Too Late for Tears | Dutton | 6.0 | 結末が場当たり的で意外性もない。動機もアンフェアである。 | 2008/04/04 |
Life Cycle | Collins Crime Club | 5.5 | 中盤がだれてしまっている。殺人が3つあるわりには緊迫感とスピードに乏しい。 | 2013/09/10 |
まあ、先に述べたように「すごい傑作もないが、それなりに読ませる」、採点にそれが現れていますね。
今回の作品「Marked Man」は...
Quinnがロンドンへの帰路、寒さに耐えきれず近くのバーに入るところから話が始まります。
彼は、そのバーに入ってきた女性Dorothy Masonに目を奪われ、ちょっとしたきっかけから話をかわす仲となった。彼女は地元の医者Dr.Masonの夫人だと言う。
その後、バーを先に出たQuinnは、バスに乗り遅れてしまうが、幸運にも後からきたMrs.Masonの車に拾ってもらうことができた。ロンドンへの最寄り駅まで行く車中でも、QuinnはMrs.Masonにブランデーを勧められ、不覚にも酔いつぶれる。朦朧とした意識の中で、前からきた車のライトに対し、Mrs.Masonが何か声を上げるのを聞きながら、彼は意識を失ってしまった..。
気がついてみると、車は道路脇に止まっており、運転手のMrs.Masonはすでに死亡していたのである。それも事故死ではなく、首に巻き付いていた凶器を見ると、絞殺に間違いない。しかも、Quinnの腕には、彼女の爪痕と思われる疵が残されていたのである。もしかしたら、泥酔した彼自身が彼女に言い寄り、その勢いで殺害してしまったのではないか。狼狽したQuinnは、車中の指紋を拭き取りロンドンに帰ってしまう。
おいおい、シリーズ探偵が犯行現場を荒らしたうえ逃走するのか(笑)
翌日、冷静さを取り戻したQuinnは、昨夜の出来事をPipperに相談することになった。Pipperは、保険調査員の身分を利用して調査に着手。Mr.Masonは美人で活発、地味な夫に比べると派手な言動は地元でも評判だったようで、他の男との噂も少なくなかったようだ。
Pipperは被害者の夫であるDr.Masonの自宅に出向く。彼は言葉巧みに、医師から夫人に関係のあった人物を聞き出す。小さいときから親しくしていた従姉妹、夫人が援助を申し出ていた若い男、村で噂になっていた男などの情報を入手する。
さて、調査の過程で浮かび上がってきた容疑者は、刑事を跳ね飛ばして逃走するが、最後はバスに轢かれ死亡してしまう。これで、事件は解決したように思えたのだが...。
読み終えると..
序盤は「意識を取り戻したQuinnの横に死体」といった派手な展開なのですが、中盤からが退屈で盛り上がりません。作者は、それを補完しようと、Pipperが絞殺されそうになる場面を設けたりするのですが、これも効果的とは思えません。この襲撃そのものも、真相がわかった後に考えると、必然性に乏しく犯人がなぜそんなことをしないといけないのかよくわかりません。50年代のスリラーでは、主人公が後頭部を殴られて失神するシーンがよくありましたから、ステレオタイプなのかもしれませんが、取ってつけたような展開と言わざるえません。
ラストに判明する真相はなかなか面白いので、中盤の停滞が残念な作品だと思います。Carmichaelは、「後期作品の評価が高い」とされる作家ですが、「キャリアと共に向上していったストーリーテリングの習熟」が、その理由なのでしょう。
さて、とんでもないことをやってしまった逃亡犯Quinn、途中で警察のHoyle警部に顛末を打ち明ける羽目になるのですが、お咎め無しで簡単に許されてしまいます。何の危機感もなく、日常に戻ってしまうのには、いささか呆れてしまいました。
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