Murder en Route ( Brian Flynn )

バスの中の密室殺人と謎の失踪事件のリンクが楽しい。さらに、ラストのひとひねりが効いています。


 今回は Briam Flynn の第8作「Murder en Route(1930)」を読んでみました。


こんな話

 11月の霧雨の夜、8時過ぎのバスはいつものように 終着駅に向けて運行していた。バスの車掌は、この1ヶ月の間、毎晩同じ男が全く同じ場所からバスに乗り込み、常に2階のオープンデッキに陣取ることに気づいていた。なんとその男は、今日のような天候の夜でもその習慣を崩さなかったのである。
 しかし、今夜その乗客はいつもの停車場で降りてくる気配がなかった。不審に思った車掌が確認に出向くと、乗客は息絶えていたのであった。後に死因は絞殺によることが確認された。
 車掌と常連客は、彼が乗り込んできてからずっと上階への階段を見守っており、誰も行き来した人物はいなかったと断言している。唯一近づける可能性があったのは車掌だけだが、彼が犯人とも思えない。ならば、犯人はどうやって車掌や乗客に気づかれずにバスに乗り込み、彼を殺害することができたのであろう。

 とまあ、冒頭から不可能状況の殺人でなかなか興味深い序盤です。
さて、ここから場面は変わって、地元の牧師である Probyn の一人称でストーリーが展開していきます。

 牧師は息子の Michael ともども、Anthony Bathurst の友人であり、彼の能力に高く評価していたので、地元警察の Curgenven 警部の捜査に彼を推薦したのであった。

 被害者の身元であるが、体臭に魚臭い匂いがあったことから、周辺の魚フライを売る店舗に捜査の手が広がっていく。その結果、被害者は Claude Sutcliff というアメリカ人であることが判明する。彼は近くの魚フライを売る店舗に下宿していたのであった。彼はその女将に、南米で先住民族の怒りを買い、その報復を恐れて逃げているのだと打ち明けていたのだった。事件の動機はこのあたりに隠されているのだろうか。

 ここで舞台は一転、ある富豪の遺産相続をめぐる事件に視点が移ります。

 死んだ富豪には一人息子がいたのだが、彼はその昔、結婚を反対されたことから大喧嘩をし絶縁となっていた。ただ、死期の迫った父は彼の行方を探していたらしい。ようやく状況に気がついた息子と思われるアメリカ人は、彼のパートナーとともに、イギリスまで出向くことになっており、そこで富豪の会計を管理する会計士親子と会うことになっていた。しかし、その前に彼は謎の失踪を遂げてしまうのである。

 2つの事件、「バス内の密室殺人」と「相続人失踪事件」は、何らかの関係があるのだろうか。Anthony Bathurst の推理は、どのような結論を見出すのであろうか..。


読み終わると...

 今回の作品では、作者は一見関係のなさそうな2つの事件を並行して描くことにより、読者の興味を引く展開を構成しており、両者の関連性が明らかになっていく中盤まで良い緊張感を保っています。
ただ、ここから少し冗漫となり、終盤になって遺産相続人の娘に危機が迫るあたりで、犯人の正体や動機もなんとなく見当がついてしまいます。

 さらに、途中でバスの密室殺人のトリックが明らかになるのですが、これはあまりに実現性に乏しく、気づかれずに実行するのは極めて困難なものでした。もし、実行中に乗客や車掌に気づかれたら、その場で計画全体が破綻してしまいます。
考えてみると、そもそもこんなトリックを実行する必然性に乏しいのです。犯人の目的は、その人物を抹殺することなのですから、こんな面倒で危険なことをする必要性はまったくありません。死体をそのあたりに放置しておくだけで十分だったはずです。
こんな変なことをして不可思議な状況を作り出してしまったから、名探偵 Anthony Bathurst が乗り出してくる羽目になるのですよ(笑)。

 しかし、このような大きな瑕疵があっても、最後に待ち受ける「ひとひねり」にはちょっと驚かされました。このあたりは作者の独壇場で、なんとか読者を驚かせようというケレン味には非常に好感が持てます。個人的にこういう意外性は大好きなので、「次の作品も読んでやろう」と思わせるラストに拍手を送ります。