The Flying Boat Mystery ( Franco Vailati )

飛行船からの人間消失は魅力的な設定だが、必然性に乏しく説得力がありませんでしたね。


知らない作家ばかりを紹介してくれるLocked Room Internationalですが、今回はなんとイタリア製ミステリ。
The Flying Boat Mystery」、1935年の作品です。


こんな話

「大きさ、快適さ、技術的完成度において最高のモデル」とされる最新鋭の飛行船「ドルニエ WAL-134」が今回の舞台となります。

この飛行船は、現在ローマ近郊のオスティア河口に係留されており、12名の乗客と数名の乗組員が乗船することになっているのだが、出航時はいささかバタバタしていた。
まずは、一人の男が駆け込んでくる。チケットを予約していなかった彼は必死に乗船を乞うが乗務員の断られてしまう。しかし、空席がないことを知った彼は、なんと勤務中の整備士を買収し、乗務員用のスペースにもぐり込んだようだ。
さらに離陸寸前、口ひげをはやした肥満体の紳士が息を切らして駆け込んでくる。彼こそが、後に事件の被害者と目される銀行家のFrancesco Agliatiであった。

飛行船が離陸した後、彼はトイレに立つ。ところが、そのまま閉じこもってしまい、いつまでも出てくる気配がないのである。 心配した乗客がトイレのドアをノックしても応答がない。結局、中継点までその扉が開くことはなかったのだ。
その状況に不審を抱いた一行は、着陸後ドアをこじあけ内部に入るのだが、そこには誰もいなかったのである。

あの肥満体の銀行家はどこに消えてしまったのか。トイレの上部にはハッチがあるが、とても彼が通れるような大きさではない。飛行船から落下したとしたら、目撃者がいるはずだが、乗客は何も見ていないという。銀行家は、煙のように消え失せてしまったのであった。

この事件は「飛行船の失踪」として大きなセンセーションとなるのだが、さらに新たな展開を見せる。飛行船に同乗していた乗客のバラバラ死体が、駅のトランクの中から発見されたのである。また、失踪した銀行家の妻と娘が狙撃される。これは幸い未遂に終わるのだが、これらの出来事は銀行家の失踪と関係があるのであろうか。


読み終えると..

1935年の作品に対し、あまり野暮は言いたくないのですが、ミステリにおけるトリックというのは、その手法よりも「なぜそのような設定にしないといけないのか」という必然性こそ重要だと思います。特に「密室」のような不可能犯罪物においては、それが欠如していると読者を納得させる説得力が生まれてきません。
この作品はまさにそれ。何故飛行船の中で失踪事件を演出しなければいけないのか必然性がありません。犯行の最中に誰かに声をかけられたりしたら、そこでおしまい。船内の乗客は少ないのですから、そのリスクは極めて高いと思われます。
また、肝となる「消失トリック」は悪くはありませんが、上部のハッチの存在を考えると自ずと方法は推測できてしまいますし、そこから導かれる結論を考えると、このトリックは犯行の隠蔽どころか逆効果なのではないでしょうか。

小説として見ると、リーダビリティが高いとはとても言えません。短い作品ですが、途中退屈でやめたくなりました。
Locked Room Internationalという叢書は、全く知らない作家を紹介してくれる貴重な存在で、どの作品もそれなりのレベルなのですが、今回は残念な結果となりました。


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