The Magician's Death ( Paul Doherty )

これは面白い! ここまでの Hugh Corbett シリーズでは最高の出来。中盤からの緊張感ある展開が素晴らしい。


 毎回楽しませてくれる Paul Doherty の Hugh Corbett シリーズ、今回は第14作目に当たる「The Magician’s Death(2004)」を読んでみます。さて今回はどうでしょうか。


こんな話

 時はこれまた1303年。第9作目の「Satan’s Fire」が1303年の始まりでしたから、これで6作目。Hugh Corbett も大変ですな。

 話はフランスに潜む英国の工作員、Walter Ufford と William Bolingbroke の二人が錠前破りを従え、とある書物を盗み出すところから始まる。その書は「Magician」と噂された学者 Roger Bacon が遺した書で、超自然的な秘密と知識が解読不能な暗号で記されているのだという。しかし、その作業中に二人は発見され、Bolingbroke は、盗み出した書を持って脱出するものの、Ufford は、フランス当局に拉致されてしまう。彼らは Corbett 配下の者であった。

 さて、その当時イギリス王 Edward1世と、フランス王 Philip4世 との間には緊迫した関係が続いていた。その中で、両名ともに世界の謎を解き明かすとされるBaconの書「Secretus Secretorum」を解読しようと躍起になっていたのである。
Philip4世は、Edward1世に対し、この暗号書を共同で解読するための外交会議を開催するよう提案する。これを受け入れたEdward1世は、会議の場として、Dorset 沿岸の要塞 Corfe Castle を設定、そこに両国から精鋭の学者たちが集結することになったのである。
 イングランド代表団を率いるリーダーとして選ばれたのは、「王の片腕」である Sir Hugh Corbett であった。彼はいつものように、側近の Ranulf、Chanson と、この件と関わりのある William Bolingbroke を引き連れて、Corfe Castle へ出向くことになる。一方、フランス側からは、Corbettの仇敵、あの Amaury de Craon が、代表団を率いて乗り込んできたのであった。

 しかし、彼らが到着する前から、Corfe Castle の周辺には不穏な暗雲が立ち込めていたのであった。城の周囲で、地元の若い女性たちが次々とクロスボウで殺害されていたのである。城を取り巻く森では悪魔や超自然現象の噂が飛び交い、地元住民たちを恐怖に陥れていたのである。
そんな状況の中、Corfe Castle 内部でも、フランス人の学者が不可解な死を遂げてしまう。一人は心臓麻痺、もう一人はスロープで足を滑らせ首の骨を折って死亡、一応、自然死および事故死として処理されるが、Corbett は殺人の可能性が強いと考えていた。

 Corbett が、それ以上に気にかけているのは、フランス王 Philip4世の側近 Amaury de Craon が画策しているであろう陰謀であった。彼は、この閉ざされた城の中で何を企んでいるのであろうか。
そんな中、Corbett は、近くの沿岸の町に海賊が出没しているという報告を受ける。どうにも不審な出来事だが、何か関連があるのだろうか..。


読み終わると...

 この作品、今まで読み続けてきた Hugh Corbett シリーズでは最高の出来でしょう。Doherty のストーリイテリングについては、決めた筋書きをただなぞっているだけの感が強く臨場感にかける印象が強かったのですが、この作品の中盤からの展開はお見事。 Amaury de Craon の陰謀を見破り反撃に転じた後、犯人の正体を指摘するラストまで、一気に読ませてくれました。
ミステリ的に見ると不満がないわけではありませんが、本作のリーダビリティが大きくそれを凌駕しています。このシリーズは、常に一定のレベルを維持していましたが、ここに来て一気に最高のレベル。2026年現在、作者はすでに25作目まで書き上げているようなので、これからも非常に楽しみです。

 さて、作品内で大きな役割を示す「Secretus Secretorum」という書を残したされる Roger Bacon ですが、Wikipediaによると、下記のような人物だったようです。

ロジャー・ベーコン(Roger Bacon、1214年 - 1294年)は、「驚嘆的博士」(Doctor Mirabilis)とよばれた13世紀イングランドの哲学者。カトリック司祭で、当時としては珍しく理論だけでなく経験知や実験観察を重視したので、近代科学の先駆者といわれる。(中略)
さらにベーコンは後世において顕微鏡、望遠鏡、飛行機や蒸気船が発明されることまで予想している。

ということなので、当時の為政者にとっては、魔法使いや錬金術師のように受け取られていたのでしょう。