Deadline、The Brave, Bad Girls ( Thomas B.Dewey )
Thomas B.Deweyの私立探偵 Mac 物を数冊。どの作品も小粒で地味、あまりぱっとしません。
Thomas B.Dewey(1915-1981)は、アメリカの作家。私立探偵 Mac を主人公とする作品で知られています。主人公の Mac は、ハードボイルド小説史上、最も人間味あふれる私立探偵の一人とのこと。
ちなみに、Mac の名字は、作中ずっと伏せられていたのですが、Robert A Baker & Michael T.Nietzel のハードボイルド評論「Private Eyes:One Hundred And One Knights」によると、後期の「The Love Deat Thing(1969)」という作品内で、Mac Robinson と答える場面があるらしい。
過去に、Dewey の Mac シリーズは4冊ほど読んでいるので、当時の短評と書影をまとめておきます。
Draw the Curtain Close (1947)
後半の展開がごたついている。あまりにチャンドラー的な悪役は時代遅れだ。(2000/05/10)
もう古臭くなっているという感想なのでしょう。この作品は、マンハントで訳されているらしいですが、単行本にはなっていません。
SIGNET BOOKS
FIRST PRINTING, SEPTEMBER, 1949
144 Pgaes
The Mean Streets (1954)
前半から中盤までの展開が良くできている。犯人の設定も面白い。(2003/10/26)
ハヤカワポケットミステリ319「非情の街」として訳出されています。
PERMA BOOKS
1st printing January, 1956
192 Pages 25c
The Case of the Chased and the Chaste (1959)
まじめな作風は僕好み。後半は盛り上がった。小品だが悪くない出来。 (1999/10/29)
本が行方不明なので、詳細はわからず。
A Sad Song Singing (1963)
ミステリとして読むと失望する。その当時は新鮮だったかも知れないが今では陳腐。(2000/02/23)
この作品、評判の高い作品なのですが、あまり感心しなかった模様。テーンエイジャーのフォークシンガーという設定は色褪せてしまったのでしょう。
A Pocket Book edition
1st printing January, 1965
158 pages 35c
1980年代に復刊された2冊を読んでみる。
今回は、1980年代に Carroll & Graf で復刊された2冊を読んでみます。巻末のリストによると、この出版社から刊行されたのは、上記「The Mean Streets (1954)」と「A Sad Song Singing (1963)」と、これから紹介する2冊なので、これで Dewey の代表作は一定カバーできたと言えるでしょう。
Deadline (1966)
死刑執行が迫っている被告を救い出す設定。Macの捜査は緊迫感がないし、真相には意外性もない。
こんな話
Mac は弁護士の依頼を受けて、Wesley という小さい町で起こった殺人事件の調査に臨む。街の有力者の娘が殺害された事件で、被告は22歳。彼は12歳で両親を事故で亡くし、その後は近くの農場で働いていた。彼はひどい藪睨みで目立たない男だったが、何故か被害者の娘は彼につきまとい、その都度からかっていたという。死体は納屋に放置されていたのだが、その近くで被告は拘束されており、有罪は明白のように思われていた。Mac に与えられた時間は4日。彼は被告を救い出す何かを見つけることができるだろうか..。
読み終わると..
死刑執行間際の人間を救い出すという設定は、アイリッシュの「幻の女」や、ラティマーの「処刑6日前」などが頭に浮かびます。どの作品においても、残された時間と戦う緊迫感、追い詰められた主人公の絶望感で話が盛り上がるものなのですが、残念ながらこの作品には、そのような展開は感じられません。
また、先の作品に見られるようなラストの意外性も皆無で、なんとなく事件が解決した、という不完全燃焼な結末となってしまいました。
Carroll & Graf Edition 1984
223 Pages $3.50
The Brave, Bad Girls (1956)
前半は少し退屈。中盤Macが拷問まがいの取り調べを受けるところから盛り上がったが、結末は尻すぼみ。
こんな話
Mac は、とある富豪の娘から不審な男たちにつきまとわれているから助けてほしいという依頼を受ける。現場に出向いた彼は彼女を逃がす代わりに、男たちに拘束されてしまう。どうやら彼らは父親の命令で、娘のボーイフレンドを探しているらしい。
誤解の解けた Mac はすぐ開放されるが、翌日別の依頼がやってくる。依頼人は学校の教師で、彼女の同僚がいわれなき中傷を受けているというのだ。Mac がその女性の背景を調べてみると、彼女の別居中の夫は、先日男たちが探していた男と同一人物であることが判明する。Mac は、彼のもとを訪ねてみるが、そこで見つかったのは男の死体であった。また、その一室には先の依頼者であった富豪の娘が寝ていたのである..。
読み終わると..
死体を発見した Mac がなんの通報もせず放置してしまうためか、人間関係が複雑なせいか、とにかく前半は話がなかなか進みません。警察の捜査が進み、Mac に敵意を抱く捜査官が登場した後、ちょっと意外な展開もあって盛り上がりますが、そこからまた停滞し、そのまま終了。これもまた不完全燃焼ですね。
Carroll & Graf Edition 1983 244 Pages $3.50
涙が乾くとき
相変わらずぱっとしない展開。デューイの限界がわかる作品。
おまけにもう一冊。1984年に河出書房から「アメリカンハードボイルドシリーズ」として翻訳された作品を読んでみました。特に内容を紹介する必要はないでしょう。
河出書房 1984年10月20日初版印刷 1984年10月30日初版発行 266ページ 1200円
Dewey の作品を続けて読んで感じるのは、まずストーリー展開が単調なこと。
小鷹信光は「涙が乾くとき」の解説で、「長寿シリーズの割にはいまひとつ人気が盛り上がらなかった。おそらくその最大の理由は、どの作品もこぢんまりとけれんなく地味にまとめられていたことではなかったかと思う。」としていますが、そのとおりだと思います。
さらに、小鷹は「ハードボイルド・ミステリーの隘路の一つである謎解きの要素に、デユーイがこだわりすぎたこと」も要因と語っていますが、これはよくわかりません。隘路が何を指すのか不明ですが、むしろもっとこだわるべきで、Deweyの作品にはミステリ的な意外性が殆どないことが人気が出ない理由のような気がします。
先に読んだ「ジョン・エヴァンスの作品」を思い起こすしてもらえると、言っていることがわかっていただけるでしょうか。ハヤカワポケットミステリで「非情の街」1冊しか紹介されなかったのも、このあたりが理由のようにも思われます。
ハードボイルドファンには怒られるでしょうが、最後に言ってしまおう。