Unhappy Hooligan ( Stuart Palmer )
ストーリー展開は退屈、謎解きも見るものなし。サーカスを舞台にした珍しさだけでは長編を支えられません。
今回は、Stuart Palmer(1905-1968)1956年発表の「Unhappy Hooligan」という作品を読んで見ました。Palmerといえば、 女教師Hildegarde Withersとその友人の警部Oscar Piperを探偵役としたシリーズで有名ですが、今回の作品は晩年に2作ほど書かれた犯罪研究家Howard Rookを主人公とする作品です。
こんな話
ある朝、Howie Rookは、警察署長であるParkmanから呼び出され、ある事件を引き受けるよう促されるところから始まります。
その事件とは、弁護士のJames McFarleyが、自宅の一室で胸部をピストルで撃ち死亡したという一件であった。警察は現状これを自殺と見ているのだと言う。なぜなら、現場は内部からボルトで施錠されており、いわゆる密室状態だったからであった。
しかし、不可思議な点も見つかっている。まず、異様だったのは被害者のJamesが、なんと顔に白塗りのメイクアップをしていたという点である。
白塗りのメイク? 「志村けんのバカ殿」か(笑)
と日本人なら思うところですが、ここはアメリカ、そうではなくサーカスのClown(道化)、いわゆるピエロの化粧だったのである。
Jamesは弁護士だったが、生前からサーカスにのめり込んでおり、サーカスに関する大量のコレクションを自宅に揃え、それに関する著作もある。更にサーカスに「Guest Clown」として参加していたこともあり、白塗りのメイクはそれほど異様とは思われなかったようだ。
しかし、室内には客を招く準備をしていたような様子もあり、自殺する人間がこのようなことをするとは思えず、他殺の疑いも捨てきれない。
それでも、警察は一旦自殺と認定した以上、何の捜査もしていないのだが、Jamesの別居中の妻であるMavisは、夫は殺されたのだと強く主張しているのだという。このような状況から、署長はRookにこの事件を押し付けたいらしい。
RookはMavisから話を聞くことになるが、彼女は事件の鍵はサーカス内にあると主張し、RookにJames同様、サーカス内にゲストとして入り込むことを強く依頼する。
このあたりの展開はいささか強引で、大した根拠もなくRookはサーカスに参加することになってしまいます。
Rookはサーカス内の美人アクロバットや小人などから話を聞き出し、生前Jamesはサーカス内で黒革のノートに何かを書き込んでいたことを知り、そのノートが事件の鍵と考えるのであった...。
読み終えると..
はっきりいいましょう。この作品、ストーリーは退屈、ミステリ要素も希薄、全体として面白くないの一言。
普通、この手の小説では、サーカス内で関連する何らかの事件が起き、話が展開するものですが、この作品、サーカスの描写と会話に明け暮れ、何の進展も見られません。この中盤が極めて退屈で、いい加減やめたくなりました。
ミステリとして何らかの面白さがあればまだ救われるのですが、結局、Jamesが弁護士時代に関わった過去の事件との関係が示唆されるだけであり、犯人も「こんな人物いたかな」というレベル。冒頭の密室の謎も解決も明確にされないまま有耶無耶になってしまうありさまでミステリとしても、完全に失敗作と言わざる得ないでしょう。
まあ、アメリカ人はサーカスに色々思い入れがあるようなので、そのあたりに魅力を感じるのかもしれませんが、残念ながら極東の住人に通じるものはありませんでした。
裏表紙には、Clownに仮装した作者の写真が掲載されています。 この本は、有名なクラウンらしいFELIX ADLERに献辞されており、「in memory of a wonderful week with The Big One.」とあります。「The Big One」というのは多分サーカスの名前でしょうから、作者のPalmerも「Guest Clown」として参加していたのかもしれません。
HAPPER & BROTHERS 1956 191ページ Book Club Edition