Vampire Abroad ( Max Dalman )

陳腐な吸血鬼ギミックと緊迫感のないストーリー展開。オカルト風ミステリを期待すると確実に裏切られます。


作者のMax Dalmanはこちらのサイトによると、

Max Dalman (1905-1951) is not much read these days and I found almost nothing about him online. He was born Max Dalman Binns in Scarborough and is the son of the equally forgotten British mystery writer Ottwell Binns.

要するに、今ではネット上に何の情報も見当たらない作家とのこと。父親のOttwell Binns(1872-1935)もミステリー作家だったようですが、これまた忘れられてしまった模様。ただ、彼については、Wikipediaに情報があります。

さて、今回はこの作家の「Vampire Abroad(1938)」を読んでみます。この作品、題名が示すような吸血鬼に絡めたミステリのようですが、さて、どんなものでしょう。


こんな話

話は密室での死体発見から始まります。

その朝、Sir Arthur Scarsdaleの執事Bentonは、主人が部屋から出てこないことに不安を覚えていた。Scarsdaleは非常に几帳面で時間に正確なので、朝は必ず自ら起床しているのである。ところが、今朝は姿を見せないどころか、ノックにも応えようとしないのだ。しかも、いつも部屋に鍵をかけない彼が内部から施錠しているのだという。
執事の騒ぎぶりに起こされた甥のShelton、著名な探検家のFaringdon、客人であるTurtonの三人は、寝室のドアを壊し部屋の中に押し入る。そこで発見されたのは、ベッドに横たわるScarsdaleの死体であった。
と同時に、死体を見たFaringdonが “The bat! The bat!” とつぶやき卒倒してしまうのだ。

この人、本当に著名な探検家なのかあ。ミステリで卒倒するのは妙齢の美女と決まっているのですが、これは意外な展開。この本で一番の意外性はここかもしれん(笑)。

地元の医師は死因は心不全だ言うが、現場には睡眠薬が残されており、その過剰摂取もあり得る。自殺あるいは殺人、どちらの可能性も否定できないのである。
検死の結果、とんでもないことが明らかになる。死体から大量の血液が抜かれていたことが判明したからである。

続けて、第二の殺人が..。
森に住む密猟者が同様の手口で殺害されたのである。彼もまた体内の血液を抜かれていたのである。現場にはコウモリの死体が転がっているのも発見された。この殺人は、吸血コウモリの仕業なのであろうか。
どうやら、この密猟者は先の殺人事件に関わる情報を握っており、恐喝を図ろうとしていたようだが、返り討ちにあったようなのだ。


読み終えると..

こう書くと、おどろおどろしいオカルト風ミステリを期待されるかも知れませんが、全くそんなムードはありません。

それに関しては、Amazonの書評が的を射ているので、引用しておきます。

ceric7 No chills, no thrills
Using the word “macabre” to describe this novel is misleading and may lead the reader to expect a chilling and thrilling story.The title may also raise expectations which, alas, will remain unfulfilled.

「この小説を説明するために「不気味な」という言葉を使うのは誤解を招き、読者にぞっとするようなスリリングな物語を期待させるかもしれません。また、このタイトルは期待を高めるかもしれませんが、残念なことに、それは満たされないままです。」(Google翻訳)

まさにそのとおりですね。

中盤のストーリーは、主にSheltonの視点から描かれるのですが緊張感にかけており、平板で退屈な展開が続きます。殺人の動機は過去の事件にまつわるものなのですが、これが明らかになるのは解決直前に外部の人間が急に登場、概要を証言するという有様なので、その構成のまずさが目立ってしまいます。少なくともこのあたりを中盤で組み込み、話をふくらませ読者を惹きつけていくのが作家の力量だと思うのですが..。

残念ながら、読前の期待は裏切られてしまいました。まあ、「忘れられた作家」に多大の期待をするほうが間違っているのでしょう。