Android黎明期のクラムシェルたち ( その8 IS01の思い出 )

ベンダーに見捨てられながらも、ユーザーに愛されたIS01


2010年代のAndroidクラムシェルを振り返る場合、Sharpが開発したIS01を取り上げないわけにはいけません。今回は、それにまつわる思い出話を書いてみましょう。

これまで見てきたNECのLifeTouch Noteは、7インチでありながら重量は700グラムもあり、逆に解像度は800x480ドットしかないという、見るからに鈍重で垢抜けない出来でしたし、Dynabook AZの本質はノートPCであり、Androidマシンとしての必然性に欠けるマシンでした。

その中で、IS01は5インチディスプレイで227グラムという軽さ、さすがSharp製と思わせる高解像度ディスプレイを搭載しており、これでCPUやメモリが一新されれば、現在でも通用するのではと思わせる構成です。

しかし、これが売れなかった。

Android2へのアップデートは早々と見送られてしまい、auは月額8円で投げ売りする始末。まあ、本の世界で言えばゾッキ本扱いですね。
このようにメーカーには見捨てられてしまったIS01ですが、この手のガジェット好きには愛されたマシンでもあります。わたしもその一人、IS01(あるいはNTTドコモから出たLynx SH-01B)にはだいぶお世話になりました。

今回は、このIS01を少し紹介しておきましょう。


優秀だったGPSは、古本屋廻りの友だった..。

まず特筆しておきたいのは、GPSの優秀性。掴みの速さと位置の正確性は、当時のマシンでは有数のものだったと思います。
わたしの趣味の一つは古本屋廻りなのですが、このマシンがそれにどれだけ役立ってくれたか。

世の中には色々な地図がありますが、「全国古本屋地図」というのもありまして、これを頼りに見知らぬ土地の古本屋を探し歩いたものでした。しかし、掲載されている地図はこんなもの(図参照)ですから、方角も不正確だし、路地を一つ間違えるともうわかりません。予想外に難しいのが大きな駅付近で、地下街などがあると抜けた先の道を見つけるのも一苦労、そこを見誤ると到達する可能性は極めて低くなってしまいます。

これがGoogle Mapsになり、さらにGPSで正確な位置を補足できるようになって、状況は大きく改善しました。最寄りの駅についてからは、GPSに従って歩いていけば良いわけですから、古本屋発見の可能性が大きく向上したことは言うまでもありません。ただ、「見つけたときの感動がいささか薄くなってしまった」という贅沢な感想もありますけどね。

このような用途に、IS01は欠かせないパートナーだったわけですが、さすがに発売から10年以上経過した現在、残念ながらその優位性はかなり霞んでしまいました。Google Mapsのバージョンも古く、使えない機能も少なくない。これは、もうどうしようもありません。

ちなみに、90年代に「古本屋地図」と並んで愛用していた地図が、こちらの「全国駅前銭湯情報」。その名のとおり、北海道から九州まで全国の銭湯を鉄道ファンの方々がまとめた一冊です。この当時は、まだ銭湯もそれなりに残っていたので、汗をかく季節の旅行や古本屋廻りには欠かせない存在でした。

「全国特殊浴場情報」という冊子もあるらしいですが、そちらと混同されませんように(笑)。


ワンセグは今でも使える..。

IS01で今でも通用するのが、ワンセグ機能です。
わたしの部屋は集合住宅の一室ですが、電波の通りはあまり良くありません。そんな中でも、IS01のワンセグは、少し窓近くに移動するだけで電波を拾いつながります。このつかみは現在のものより優秀なように思われます。また、多くのマシンはワンセグ接続に専用アンテナなどを必要としますが、IS01は本体だけで問題なく使えます。災害時におけるワンセグの有用性は、東日本震災以降言われていますから、一台あるといいかもしれません。


次に、IS01における技術トピックについて触れておきます。

rootの取得について

国内のマシンで、IS01ほどroot関係の話題が豊富なマシンは他にないかもしれません。2021/02のとある日、Googleにて”IS01 root”で検索すると、なんと約188,000ヒットがありました。
さて、root化の方法について、記事の内容に色々相違があるのは、マイナーバージョンによってroot取得方法が違っているからです。IS01の「設定」→「システム」→「端末情報」にある”ベースバンドバージョン”と表記されているのがそれで、下二桁によってやり方が変わってくるわけです。
わたしは、IS01とSH-01Bの2台持っていますが、1台は”08”、もう一台は”16”でしたが、ベースバンドのBBを付けて、”BB08”、”BB16”というように呼ぶようです。
このようなマイナーバージョンが多数存在するのは、root取得を図るユーザーと、プロテクトしようとするベンダーのイタチごっこの結果なのです。こんなことに労力を割くなら、Androidのバージョンアップを検討してほしかったというのが正直なところでしょう。

肝心のroot化ですが、BB08の場合はここ、BB16ではここのような方法で、今でもroot化が可能なようです。その他のベースバンドについては、対応した施策を個別に調べる必要があります。

Android2.2の登場

早々とメーカーによるバージョンアップの道が閉ざされてしまったIS01ですが、なんと有志の方が、Android2.2をポーティングしてしまったのです。
しかも、1.6を上書きしてしまうのではなく、recoveryパーティションに2.2を書き込むもので、結果として1.6と2.2の共存(マルチブートに近い)が可能になっており、ニーズによって使い分けることができるという優れものでした。いまとなっては、1.6も2.2も大きな差異はありませんが、それでも2.2のほうがまだ活用の幅は広いので、やって見る価値はあるかもしれません。

2.2の導入についてはroot化しておくことが前提となりますが、このサイトあたりを参考にするとよいでしょう。

今でも使えるソフトウエア

これについては、Android黎明期のクラムシェルたち(その6 Dynabook AZにロシアンROMとAndroid4.1)の[3]項を参照してください。


今回はIS01に関わるトピックを簡単にまとめてみました。個人的に、IS01には色々お世話になったので、改めて文章に書き起こしてみると感慨深いものがあります。いまさらIS01を使おうという方は少ないと思いますが、何かの参考になれば幸いです。

メーカーに見捨てられたマシンでありながらも、ファンの記憶に残る名機、それがIS01ではないでしょうか。