急行出雲 鉄道ミステリー傑作選 ( 鮎川哲也編 )

バラエティに飛んだ作品選択は買いますが、その弊害でしょうか、作品レベルのバラツキが気になる一巻でした。


題名 作者 評点 コメント
西郷隆盛 芥川龍之介 6.0 [初出不明]隆盛生存説を語り合う夜汽車の雰囲気が良い。
一枚の切符 江戸川乱歩 6.0 [新青年 大正12年7月]乱歩の二作目。轢殺事件の冤罪を晴らす男の推論とストーリー展開にぎこちなさが残る。
夜行列車 成田尚 2.0 [新青年 大正14年4月]こんないい加減な話が「新青年」の懸賞で二位になるのだから、その時代のレベルがわかるというもの。資料価値だけで載せたのだろうが、読者には迷惑である。
街角の文字 本田緒生 3.0 [新青年 大正15年1月]ミステリーの愉しみ(1)で読了済。
夜行列車 覆面作家 7.0 [平凡 昭和23年1月]ミステリーの愉しみ(2)で読了済。
汽車を招く少女 丘美丈二郎 7.0 [探偵実話 昭和27年7月]田舎町に旧友を訪ねた男の前で起こる轢死事件。怪談としてよく出来ている。
悪魔の下車駅 渡辺啓助 6.0 [読切倶楽部 昭和33年4月]教え子との浮気に走った教授。その死体を発見した彼は苦悩する。結末は予想通り。
急行出雲 鮎川哲也 6.0 [宝石 三十五年八月]日本代表ミステリー選集09 犯罪特製メニューで読了済。
踏切 高城高 7.0 [宝石 昭和35年11月]麻薬捜査官を主人公にしたハードボイルド。いささか爽快感に欠ける話だが読ませる。
磯浜駅にて 小隅黎(柴野拓美) 6.0 [宝石 昭和35年12月]ちょっと不気味なショートショート。
機関車、草原に 河野典生 2.0 [SFマガジン 昭和42年6月]滅亡に向かう近未来の東京を舞台にしたSFだが、冗漫な説明と陳腐な筋書きで読み通すのも苦労する。
剥がされた仮面 森村誠一 4.5 [小説宝石 四十五年三月]日本代表ミステリー選集11 えっ、あの人が殺人者で読了済。
ある崩潰 大西赤人 4.0 [辺境 昭和44年1月]誰もが思いつきそうな話。
子供のいる駅 黒井千次 5.0 [問題小説 昭和50年9月]アイデアは良いのだが、迫ってくるものがない。
特急夕月 夏樹静子 7.5 [別冊小説宝石 昭和50年9月]アリバイ工作中の男がダイヤの乱れに一喜一憂する姿が面白い。ラストのオチも悪くない。
急行《さんべ》 天城一 6.0 [書き下ろし]鉄道パズルですね。

「下りはつかり」に続く鮎川哲也編集の鉄道アンソロジー。序文で、まずは本書の成り立ちについて語っています。

先の「鉄道ミステリー傑作選」(『下りはつかり』)が好評であったため、乞われて続編を編むことになった。

なるほど、「下りはつかり」は、「初版から二ヶ月たたないうちに21版」でしたから、その好評ぶりが伺われます。
また、今回の作品選択については、

ご覧のとおり本巻には、現役として活躍中の作家のほかに、ほぼ同数のめずらしい顔ぶれの人々を揃えた。そのなかには昨今の推理小説界の趨勢に飽き足らずして筆を折ったものもいれば、久しい年月の沈黙の後でフェニックスのように再起した人もいる。また、いまとなっては掲載誌がどこにもないため読めぬ作品もある。

としていますが、これが必ずしもプラスに働いているとは思えません。資料的な価値と作品の出来とは全く別物であることは言うまでもなく、「珍しい作品」とは、現代において「顧みられなくなっている」がゆえに希少性を生じているとも言えるからです。

内容的にみても本格物ありSFありメールヘンあり、風俗物も あれば奇妙な味のものもあるし怪談もあるというふうに、きわめてバラエティに富んでいる。どれをいちばん面白いと思われるかは読者の個性と好みによる のだけれど、前巻に劣らぬ傑作揃いであることは自信をもって断言できる。

と豪語していますが、作品レベルの散らばりや、致し方ないことですが一部の作品に見られる古臭さや陳腐さは隠しようもなく、傑作揃いとは、さすがに言い難いでしょう。

さて、光文社の鉄道アンソロジーですが、序文によると、

編集部は二巻をもってまとめたい意向なので、編者はここに収めた倍の数にのぼる作品の取捨に苦心をした。洩れた分については巻末に題名を並べてご参考に供したいと思うが、よい出来の作品をオミットする気持ちは残念とも無念とも言いようがない。

とのことですが、1年後には続刊の「見えない機関車」が編まれています。

光文社カッパノベルズ 昭和50年11月30日初版発行 342ページ 650円