「現代の推理小説(立風書房 全四巻)」と「日本代表ミステリー選集(角川文庫全十二巻)」 ( 総括 )


「現代の推理小説(立風書房 全四巻)」と「日本代表ミステリー選集(角川文庫全十二巻)」を読み終えましたので、評価をまとめてみます。

この2つのアンソロジーは、前者が1970(昭和45)年、後者が1975(昭和50)年の編纂なので、

戦後30年(1945年〜1975年)における日本短編ミステリの傑作選

と位置づけてよいでしょう。どれを取っても選ばれた作品なのですが、この中でも特に高評価(8.5以上)を得た作品こそ、まさに「選ばれし傑作」の名にふさわしいと思います。(と言っても、あくまでわたしの好みなんですけどね。)

それでは、その傑作一覧を紹介していきましょう。


「戦後30年の傑作選」の傑作選はこれだ !

まずは、「現代の推理小説(立風書房 全四巻)」から行きましょう。

題名 作者 評点 コメント 掲載 書名
海鰻荘奇談 香山滋 9.0 作品全体にエキゾティズム溢れるなかでの緊張感ある心理戦、そして異様な生物による復讐と逆襲、傑作である。 昭和22年5月宝石 現代の推理小説(第3巻) ロマン派の饗宴
方壺園 陳舜臣 8.5 特殊な建物内の密室殺人と、唐代を舞台にエキゾティズム溢れる設定が相まって素晴らしい出来である。 小説中央公論 昭和37年5月 現代の推理小説(第2巻) 本格派の系譜(II)
噴火口上の殺人 岡田鯱彦 8.5 筋書きは予想できても、話の展開が圧倒的に面白い。作品全体の雰囲気もよい。 ロック別冊 昭和24年8月 現代の推理小説(第1巻) 本格派の系譜(I)
赤い靴 山田風太郎 8.5 妖異金瓶梅の第一編。舞台設定の面白さと、この時代ならではの殺人動機が効いている。 面白倶楽部 昭和28年8月 現代の推理小説(第1巻) 本格派の系譜(I)
獅子 山村正夫 8.5 古代ローマを舞台にした陰謀物。意外な展開を含めてよく考えられている。 宝石 昭和32年11月 現代の推理小説(第2巻) 本格派の系譜(II)
眠りの誘惑 加田伶太郎 8.5 謎解きミステリのお手本のような作品。しかも、しっかりした文章と構成で読ませる。さすが福永武彦である。 小説新潮 昭和33年7月 現代の推理小説(第2巻) 本格派の系譜(II)
8.5以上の作品 : 6

続けて、「日本代表ミステリー選集(角川文庫全十二巻)」。

題名 作者 評点 コメント 掲載 書名
妖婦の宿 高木彬光 8.5 「探偵小説年鑑(1950年版)(探偵作家クラブ編)」で読了済。 宝石 二十四年五月 日本代表ミステリー選集09 犯罪特製メニュー
年輪 角田喜久雄 8.5 少し出来すぎの感がある因縁話だが、最後まで惹きつけられる。後味も良い。 宝石 三十八年十一月 日本代表ミステリー選集02 犯罪エリート集団
さらば厭わしきものよ 佐野洋 8.5 夫の殺人を疑う妻は自ら離婚を選ぶが..よく出来た構成で読ませる。 宝石 昭和三十四年三月 日本代表ミステリー選集04 犯罪ショーへの招待
方壺園 陳舜臣 8.5 現代の推理小説(第2巻) 本格派の系譜(II)で読了済。 小説中央公論 三十七年五月 日本代表ミステリー選集10 殺人者が追ってくる
赤い靴 山田風太郎。 8.5 現代の推理小説(第1巻) 本格派の系譜(I)で読了済。 講談倶楽部 二十八年八月 日本代表ミステリー選集05 殺しの方法教えます
獅子 山村正夫 8.5 現代の推理小説(第2巻) 本格派の系譜(II)で読了済。 宝石 三十二年十一月 日本代表ミステリー選集04 犯罪ショーへの招待
8.5以上の作品 : 6

3作の重複を除くと、太字の9篇が「戦後30年の最高傑作群」ということになります。
評判の高い作品が大半を占めていますが、角田喜久雄の作品は少し意外でした。末期の宝石にこんな傑作を残していたとは、さすがとしか言いようがありません。

さて、先に「新青年傑作選」の傑作選を選ぼうで、下記3作品を傑作として評価しておりました。

題名 作者 評点 コメント 掲載 書名
三狂人 大阪圭吉 9.0 舞台設定のうまさ、巧みな論理展開、そしてラストの意外性と三拍子揃った作品。本格短篇ミステリの日本ベスト5に入る傑作である。 昭和11年7月 新青年傑作選1 推理小説編
監獄部屋 羽志主水 8.5 前半で描かれるタコ部屋の悲惨さと、ラストの捻りが見事。 大正15年3月 新青年傑作選3 恐怖・ユーモア小説編
押絵と旅する男 江戸川乱歩 8.5 乱歩の作品、いや日本の幻想小説の中でも指折りの作品である。 昭和4年6月 新青年傑作選2 怪奇・幻想小説編

上記戦前の3作と、今回選んだ6作、合わせて9作が今まで読んできた作品群のベスト9ということになります。あと一作「13の密室(渡辺剣次編)で読んだ天城一不思議の国の犯罪」を加えて、マイベスト10としておきましょう。
ベスト10といっても、1975(昭和50)年まですけどね。考えてみると、もう45年以上前なのか(笑)。


秀作群も紹介

参考までに、8点の評価をした秀作群も紹介しておきましょう。

「現代の推理小説(立風書房 全四巻)」から6篇。

題名 作者 評点 コメント 掲載 書名
不運な旅館 佐野洋 8.0 倒叙ものと見せながら意外な結末へ持ってゆく手法が効いている。 宝石 昭和34年6月 現代の推理小説(第2巻) 本格派の系譜(II)
真夜中の檻 平井呈一 8.0 田舎の旧家に文献調査におもむいた学生は、そこで謎めいた未亡人に出会う。予想通りに進むストーリーだが、迫力のある展開で読ませる。 昭和35年12月浪速書房 現代の推理小説(第3巻) ロマン派の饗宴
疲労凍死 新田次郎 8.0 迫力ある山岳物。ラストはいささか暗いが、余韻を残す。 オール読物 昭和37年8月 現代の推理小説(第2巻) 本格派の系譜(II)
散歩する霊柩車 樹下太郎 8.0 日本代表ミステリー選集03 殺しこそわが人生で読了。 昭和34年12月宝石 現代の推理小説(第3巻) ロマン派の饗宴
銀座心中 笹沢佐保 8.0 虚無的で暗いムードは笹沢ならではである。余韻を残すラストも悪くない。 昭和38年7月小説中央公論 現代の推理小説(第3巻) ロマン派の饗宴
蔵を開く 香住春吾 8.0 蔵の古道具を勝手に売り払った老夫婦の会話が傑作。さすが放送作家である。 宝石 昭和29年7月 現代の推理小説(第1巻) 本格派の系譜(I)
8.0の作品 : 6
秀作(8.0以上) : 12 21.05%

次に「日本代表ミステリー選集(角川文庫全十二巻)」から。

題名 作者 評点 コメント 掲載 書名
妖鬼の呪言 岡田鯱彦 8.0 少女の予言はいささかキワモノだが、最後まで引っ張っていく筆力に感心した。 別冊宝石 二十四年四月 日本代表ミステリー選集04 犯罪ショーへの招待
おーいでてこーい 星新一 8.0 再読で結末がわかっていたが、よくできた作品。 宝石 三十三年十月 日本代表ミステリー選集01 口笛ふいて殺人を
横溝正史 8.0 三百年前の一揆伝説と同じ状況で起きた二件の殺人。一見関係がなさそうな事件をうまく結びつけた結末が良い。それ以上にストーリー展開が巧みである。 宝石 三十年五月 日本代表ミステリー選集06 人肉料理
散歩する霊柩車 樹下太郎 8.0 自殺した妻の不倫相手を霊柩車で尋ねるという発想が面白い。ラストの捻りも効いている。 宝石 三十四年十二月 日本代表ミステリー選集03 殺しこそわが人生
石の塔 清水一行 8.0 子供の事故死とバラバラ死体事件がうまく噛み合って、最後まで一気に読ませる。長編にすればよかったのに、もったいない。 初出不明 日本代表ミステリー選集11 えっ、あの人が殺人者
寂しがりやのキング 生島治郎 8.0 女探しの正統派ハードボイルド。久しぶりに味わう好みのテイストだ。 別冊文芸春秋 四十二年十月 日本代表ミステリー選集04 犯罪ショーへの招待
蔵を開く 香住春吾 8.0 現代の推理小説(第1巻) 本格派の系譜(I)で読了済。 宝石 二十九年九月 日本代表ミステリー選集08 殺意を秘めた天使
8.0の作品 : 7
秀作(8.0以上) : 13 10.48%

「蔵を開く」がダブっていますから、こちらからも6篇ですね。

ここでは、秀作(8.0以上)のパーセンテージにも注目しておきましょう。
「現代の推理小説」の秀作率は、なんと21.05%。「日本代表ミステリー選集」が10.48%ですから、倍以上の数字を示しています。
ちなみに、レベルの高い作品揃いだった”EQMMの創刊号から10号”まででも秀作率は16.67%でしたから、20%を超える率は驚異的です。この数字から見ても「現代の推理小説」が、いかに素晴らしいアンソロジーであったかが伺えます。


どちらもレベルの高いアンソロジーだった

前項で、「現代の推理小説」のレベルの高さを上げましたが、「日本代表ミステリー選集」もそれに劣らないレベルのアンソロジーでした。全体の数字を見てみましょう。

「現代の推理小説(立風書房 全四巻)」

総数 平均 偏差 9.0 8.5 8.0 7.5 7.0 6.5 6.0 5.5 5.0 4.0 3.0
57 6.47 1.45 1 5 6 7 7 9 6 5 3 7 1
% 1.75 8.77 10.53 12.28 12.28 15.79 10.53 8.77 5.26 12.28 1.75

「日本代表ミステリー選集(角川文庫全十二巻)」

総数 平均 偏差 8.5 8.0 7.5 7.0 6.5 6.0 5.5 5.0 4.5 4.0 3.0
124 6.42 1.24 6 7 22 16 26 19 4 14 1 5 4
% 4.84 5.65 17.74 12.90 20.97 15.32 3.23 11.29 0.81 4.03 3.23

どちらも、平均点は6.4を超えており、高い水準を示しています。また、偏差からみて「日本代表ミステリー選集」は、一定以上の粒の揃った作品を収録していることがわかります。


どうしようもなかった作品たち

あくまで主観なので、あしからず。

「現代の推理小説(立風書房 全四巻)」

題名 作者 評点 コメント 掲載号 書名
ゴウイング・マイ・ウエイ 河野典生 3.0 全くつまらない。大藪と比べると、作家としての資質の違いを痛感する。 昭和34年12月宝石 現代の推理小説(第4巻) 社会派の展開
問題あり(3.0以下) : 1 1.75%

「日本代表ミステリー選集(角川文庫全十二巻)」

題名 作者 評点 コメント 掲載号 書名
驟雨 三浦哲郎 3.0 なんだこれは。代表ミステリー選集に選ばれる作品ではなかろう。 発表年、初出記述なし 日本代表ミステリー選集04 犯罪ショーへの招待
ルパン殺人事件 野坂昭如 3.0 結局何もなかったというくだらない話。これが「日本代表ミステリー」とは呆れる。 小説現代 四十六年七月 日本代表ミステリー選集07 殺人者にバラの花束
落し物あり 城山三郎 3.0 こんな作品を選ぶ編者の鑑賞眼を疑う。 発表年不明 日本代表ミステリー選集08 殺意を秘めた天使
電話 吉行淳之介 3.0 つまらない小話。なんでこんな作品が代表ミステリーに選ばれるのだろうか。 宝石 三十二年十二月 日本代表ミステリー選集10 殺人者が追ってくる
問題あり(3.0以下) : 4 3.23%

この程度なら、問題ありません。